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晴れた日の過ごし方 2

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act.6 Goody Goody


ぷーんと、バニラエッセンスのいい香りがする。
甘い芳香が室内を満たし、畳に頬を押し付けるように眠っていたセシルは、その夢のような空間の中で微睡んでいた。
「……いい匂い……美味しそう……むにゃむにゃ……」
口の端からヨダレが垂れかねない様子である。
それを隣の台所から眺めていたここの家主は、シャカシャカと泡立て器でボールの中身をかき混ぜながら、親友を呆れたような目で見つめている。
「おい、セシル!いい加減に起きろ!10時にはローザが来るんだぞ!!」
「……むにゃむにゃ……」
起きる気配なし。
それもそうだ。明け方4時までTVゲームをしていたのだから、そう簡単に起きるはずがない。
だがそれでも6時間は眠ったのだから、そろそろ起きてもいいのではないかとカインは思う。
「……ったく!」
ちっと舌打ちしたカインは、プリン用のガラス容器を一つ棚に戻す。
「どうせ起きんのだから、セシル用のプリンは必要ないな」
「それは嫌だよ」
銀のグラスを打ち合わせたような綺麗な声が、突然居間から聞こえる。カインは横目でその声の主を見やると、
「ようやく起きたか」
「プリンが無くなると聞いてね」
寝癖の激しい銀色の前髪の間から、エメラルドグリーンの瞳がのぞいている。
「嫌だよ、カイン。僕の分のプリンも作ってよ」
「お前は食べ物の事になると目敏いな。普段は何しても起きないのにな」
呆れたようにセシルの顔を眺める。
これまでカインは、セシルを起こす為にありとあらゆる方法をとってきた。
耳元でヘビメタをかけた事もあったし、頬に往復ビンタを食らわせた事もあった。
目覚まし時計を10個以上鳴らした事もあったし、無理矢理布団を引きはがした事もあった。
しかしセシルはそのカインの必死の努力を嘲笑うかのように、グーピーグーピー眠っているのである。
……これでよく、孤児院で生活できたな。
カインはそう思うのだが、セシルは昔は自分で起きられたし、身の回りの事もきちんとこなしていたらしい。
「カインが甘やかすから、ああなっちゃったのよ」
ある日ローザが苦笑いしながらそう評したのを思い出す。
カインの胸の内や腹の中など知らないセシルは銀色の長い髪を手櫛で整えながら、
「カインのプリンが無くなるのだけはゴメンだからね。プリンの為なら起きるよ」
「あー、そりゃどうも」
心のこもっていないカインの返事である。セシルが洗面を済ませているうちに、カインは急ピッチでプリンの仕上げに入る。
型の中にプリンの元を流し込み、冷蔵庫で冷やす。
昼食時間までにはおいしいプリンが完成しているはずだ。
「さて、と」
洗い物を済ませたカインはエプロンを外すと、朝食のトーストをかじっているセシルに告げた。
「じゃ、セシル。俺は出かけるぞ。さっきも言ったが、10時にはローザが来るから、昼飯とおやつはローザに面倒見てもらえ」
「大丈夫だよ、カイン。気をつけて行ってきてね」
にっこりと笑顔を浮かべるセシル。カインから子供扱いされているのだが、それを気にする様子はない。
カインに甘やかされている生活が、結構楽しいのである。
「留守番頼むぞ」
「任せて」
カインは車の鍵を掴むと、腕時計で時間を確認しながら出かけていった。
誰かと待ち合わせをしている様子だったが、さて。
カインが出かけてから5分後。ガラガラと引き戸の玄関が開いた。
「ごめんくださーい」
アルトの綺麗な声。セシルは台所から立ち上がると、すぐに玄関に向かった。
するとそこには。
金色の髪の、それはそれは綺麗な女性が紙袋を持って立っていた。
セシルの彼女であり、カインの幼馴染みのローザである。
「あ、ローザ、いらっしゃい。上がって?」
「ありがと、セシル。お邪魔するわ」
ローザはヒールの低いパンプスを脱いで綺麗に揃えると、セシルの勧めに応じた。
今日どうしても出かけなくてはいけないカインは、セシルの食事が心配で心配で、ローザにセシルの面倒を見てくれと頼んだのであった。
だったら、セシルとローザでデートでもしてくればいいのだろうが、今日は午後に電器屋がエアコンの取り付け工事にくるので、留守番がいないとマズいのである。
「私は別に構わないわよ。自宅でデートって、よくある話でしょ?」
「そう言ってくれると、僕も気が楽になるよ」
本当はセシルがしっかりすればこの問題は全て解決なのだが、セシルがしっかり者になったらそれはそれで怖いので、このままでも構わないと、最近ローザは思いつつある。
「そういえばセシル」
と、ローザが思い出したようにセシルに問う。
「今日はカイン何処に出かけたの?私のところに電話してきた時も、何も言わなかったから」
「ああ、買い物」
「買い物?珍しいわね」
ローザがそう思うのも無理はない。カインはネットショッピング大好き人間なのだ。
デパートは人の視線が鬱陶しいとかで、なかなか出かけたがらない。
セシルは小さく頷くと、
「人の買い物の付き添いなんだ。ちょっとプレゼント選ぶの手伝って欲しいって言われて、それで出かけたんだ」
「そうなの」
あのクールな外見と言動故に誤解されやすいが、カインは実はとても優しく面倒見のいい男である。
(そうでなければセシルと同居など出来ない)
プレゼント選びの付き添いに彼を指名した人間は、人を見る目がある。
「あーあ。本当は僕も行きたかったんだ。エアコンの工事がなければ、一緒に行っちゃったかも」
「次連れて行ってもらえばいいじゃない」
「でも留守番も悪くないよ。ローザがいてくれるからね」
さらっと凄いことを言う。
ローザは電子レンジで温められたかのように瞬時に顔を赤くすると、やや俯いて、バカ……と小さく呟いた。
セシルは子供のように笑うと、ローザは本当に可愛いなぁと追加攻撃をくわえ、さらにローザをゆでだこにした。
……まったく、天然というのが一番恐ろしい。
作品名:晴れた日の過ごし方 2 作家名:あまみ