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晴れた日の過ごし方 2

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act.8 Peace Piece


地下に続く細くて暗い階段を下りる。古ぼけた桃色のランプが階段全体をぼんやりと照らしている。
降り切ると、目の前には大きなドア。数々のちらしが貼られているため、ドアの地の色や素材がよくわからない。

『Neo EX-death バンドメンバー募集 当方G&B Dr、Vo募集。音楽性はスラッシュパンク』
『ライブスケジュール ●日 20:00~』
『チケット発売中。090-XXXX-XXXXまで』

「何度見ても凄いよね」
セシルはドアノブをひねりながらそう呟いた。カインはフゥ……と息を吐きつつ、
「この前よりもチラシ増えてないか?」
「定期的に剥がしているのかな?そうじゃないと、そのうちチラシがドア並みの厚さになるんじゃないのかな?」
「それもそうだな」
カインは納得すると、セシルと共にドアの向こうへ足を踏み入れた。

ここはセシルたちの暮らす家からほど近い場所にあるライブハウス。
セシルとカインは今日出演するバンドのメンバー…要はギルバートなのだが…から招待を受け、このライブハウスにやってきた。
「今日は対バンって言ってたよね?何番目に出るのかな?」
「多分トリだろう。あいつのバンドは人気あるからな」
二人はフロアの奥にあるドリンクバーに陣取ると、それぞれに飲み物を注文した。今日は車で来場しているから、アルコールは飲まない。
いや、ギルバートのライブではあまり酒を飲まない……と言った方が正解か。
「ライブハウスでコーラか…」
自嘲したような笑みが、カインの冷たい美貌に浮かぶ。セシルはファンタオレンジをストローですすりながら、
「カインは最近少し飲みすぎだから、たまには控えた方がいいんだよ。君はどこに行っても、酒飲んでる」
昔はそんなに酒好きってわけではなかったのだけどなぁ。
いつの間にやら自分の親友は大酒飲みになっていた。
するとカインはセシルのその考えを読んだかのように、
「エッジの持ってくる酒が美味くてな」
「ああ~……」
ようやく得心するセシル。そうだ、カインが酒飲みになったのは、エッジと顔見知りになってからだ。
それまでは嗜む程度だったのに……。
「やっぱりエッジが元凶かー」
「俺がなんだって?」
気が付くと、セシルの隣にエッジが座っていた。今日のライブに彼も招かれていたのだ。
セシルは、彼にしては珍しい少々意地の悪い表情で、
「カインが酒飲みになったのは、エッジのせいって話さ」
「んだよ、それ」
くっきりとした眉を寄せるエッジ。セシルやカインよりも年上なのだが、童顔のため随分と若く見える。
「こいつ、飲ん兵衛の素質はあったんだよ。俺は悪くねぇ」
「その素質を開花させたのは、お前だろう。エッジ」
冷たいサファイア色の視線が、エッジを突き刺す。エッジは語調を強めると、
「俺のせいだって言うのかよ」
「ようやくわかったか」
カインは口元を軽く歪めながら、胸ポケットから煙草を取り出す。彼は家では全く吸わないが、外では時折吸う。
それを見咎めるセシル。
「カイン、ここ禁煙だよ?」
「え?そうなのか?」
ライブハウスによってはフロア内は禁煙である。確かに、ステージの横に赤い字で『禁煙』と大きく記されている。
仕方なしにカインは煙草を渋々引っ込める。
「それにしても……」
現在ステージ上では他のバンドが演奏している。それを評論家じみた目で見ながら、カインは呟く。
「ギルはやはり上手いんだな」
アハハハハ……と、彼の親友は笑う。
「何それ。他が下手ってこと?」
「そういう言い方もあるな」
「結構言うな、お前ら」
呆れたようなエッジの声。だって本当のことじゃない?と反論した後、セシルは腕時計に目をやった。
ローザが仕事の後にこちらに来ると言っていたのだ。
「看護婦だから、来られるかわからないんじゃないか?」
エッジに突っ込まれるが、セシルはにっこりと笑って、
「大丈夫、ローザだから」
「あー、くそ。なんかムカつく」
「エッジもリディアとそうなる日が来るといいね」
「……なぁ、セシル。お前性格悪いって言われないか?」
ジト目で睨まれたが、普段から目つきの悪いカインと暮らしているセシルの涼しい顔を崩すことはできなかった。
「全然?そんな事言うのエッジくらいだよ?ね、カイン」
「俺に振るな」
コーラを一口。セシルは小さく肩をすくめると、冷たいねと一言。
与太話をしているうちに、今演奏していたバンドが袖に引っ込む。
「あんまいいバンドじゃなかったな」
そのバンドのファンもいるかも知れないのに、エッジはついついそう口にしてしまう。
(さっき、『結構言うな』とセシルたちの酷評に呆れたのにだ)
彼らの耳は、ギルバートのおかげで肥えていた。
と、最前列のお客がわぁぁぁと盛り上がり始める。どうやらダムシアンのメンバーの姿が見えたらしい。
「盛り上がっているな」
額にかかる金髪をかき上げつつ、カインが独語する。セシルも頷くと、
「今夜はきっといいステージになるんだろうな」
「あいつは音楽に関しちゃ、ピカイチだかんな」
「……エッジ、その言い方だと、音楽以外に取り柄がないみたいな感じだよね」
「………………」
セシルの突っ込みはきつい。もの柔らかな語り口の分、余計に内容がきつく感じられる。
エッジは黙り込むとジンジャーエールを注文し、口の中を潤した。こいつらと一緒にいると、どうも喉が渇く。
「で、お前ら。これ終わったらどーすんだ?」
つい顔を見合わせるセシルとカイン。
「どーするって、僕たちは打ち上げに出る予定だよ」
「呼ばれているのでな」
「あ、そ」
この様子では、エッジは呼ばれていないらしい。明らかに不貞腐れている。
エッジは腕のいい旋盤職人であるため、仕事がつまっているかも知れない。
ギルバートはそれを気遣って打ち上げに呼ばなかったのだが、彼らがそれを知るわけがない。
セシルはぽんとエッジの肩を叩くと、
「エッジならギルバートも喜ぶよ。打ち上げ一緒に行こうよ」
「お前なぁ……勝手にいいのか?」
口では咎めてみるものも、エッジがセシルの誘いに乗る気らしい。
「友達だから、顔パスで大丈夫でしょ」
フロアの独特の薄明かりの中で、魅惑的にセシルが笑う。この笑顔を見たら、反対意見は言えなくなる。
「……ん?」
場内のSEの音量が一段と大きくなったことにカインは気付く。
このアンビエントな雰囲気のSEは、ギルバートがパソコンで作曲したものだった。
SEのボリュームとともに、客の熱気も上昇している。
「そろそろか?」
空になった紙コップやグラスを、カウンターに置く3人。
ふとステージ前方を見やると。
「ギルー!!ギルー!!」
「愛してるー!!!」
絶叫とも金切り声ともつきかねる凄まじい叫び声が、フロア内に響いている。
メンバーはまだステージに姿を見せていないのにファン達は既に興奮状態で、ギルバートが顔を見せたら失神しそうな勢いだった。
インディーズのバンドなのに、大した人気だ。

『I always Next to you』

女性の場内アナウンスとともにステージに登場するメンバー。
観客のボルテージは最高潮に達した。
「ギルー!!ギルーーッ!!!!」
作品名:晴れた日の過ごし方 2 作家名:あまみ