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晴れた日の過ごし方 2

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act.5 I Am In Love


「……ったく、散々だったぜ」
納品が終わり、作業場に軽トラを走らせるエッジは、苦々しい口調でそう吐き捨てた。
昨日の夕方セシルから電話があった。
来週出荷する機械のテストをしていたところ、作業員が部品を床に落としてしまい、おじゃんにしてしまったそうだ。
要は、「すぐに必要なものなのでどうにかならないだろうか」と、特急作成のお願い。
『図面見ないと何とも言えねーな』
半ば断るつもりでこう答えたのだが、送られて来た図面は少々面倒であるが決して難しいものではなく、やろうと思えばすぐに取りかかれるものであった。
『何とかなりそうかい?』
「かなり面倒くせぇぞ、コレ」
『でもエッジなら大丈夫だよね。腕いいし、仕事速いし』
電話口の向こうで、セシルがニコニコ笑顔を浮かべているのが目に浮かぶ。
『エッジみたいな腕のいい職人さんなら、きっとこの仕事受けてくれると思うんだ』
まだ何の返事もしていないのに、こんな事を言い出す。
たまらなくなったエッジは半ばやけっぱちな口調で、
「わーかーりーまーしーたッ!やればいいんだろ!!やれば!!今から取りかかるけどよぉ、納期はいつまで引き延ばせる?」
『今組み立てているところだからね。早ければ早いほどいいな』
「わーったよ!!急いでやるよ。その代わり、今日はもう短納期の品物入れるなよ。これ最優先で作業すっから」
『努力するよ』
……このような経緯でエッジは超短納期の品を作製することになってしまった。
工場内に転がっている材料をNC旋盤にかけ形を削り出し、フライス加工で一面カット。
最後にボール盤で穴を開け、タップ(ネジ穴)立て。仕上げにバリを取って完成である。
こう書くと非常に簡単そうだが、旋盤は25センチの円柱形の材料を削り出す作業なのでやたら時間がかかったし、フライスも治具のセットなどがあるためかなり面倒臭い作業だ。
結局明け方までかけてフライス加工まで上げ、エッジは短い睡眠を取ったのだが、彼の仮眠中に父親が仕上げをやっておいてくれたため、何とか昼過ぎに品物を納品することができた。
「助かったよ、エッジ。本当にありがとう」
荷受け場で製品を検品したセシルは、目の下にクマを作っているエッジに心からの礼を述べた。
その笑顔。
エッジの品物を待ちわびていたことがよくわかる表情であった。
「エッジ、本当に、本当にありがとう!もっとちゃんとお礼を言いたいけど、現場がこの品物待っているんだ。ごめんね!」
品物を乗せた台車を、走りながら押すセシル。相当急いでいるらしい。
その背中を見送ったエッジはさて帰ろうかと、一つ背伸びをして家路についた。

ろくに眠っていないので、戻ったら早く寝よう……と思っていたところ。
交差点で信号待ちをするエッジの目に、俯きながら信号を待つ翡翠色の髪の女子高生の姿が映った。
「あれは……」
ふわふわした、柔らかそうな髪。
遠くから見ても目を引く美貌。
間違いない、あれは。
迷わずクラクションを鳴らす。
はっと顔を上げた女子高生。
クラクションの主に気付くと、とてとてと軽トラに近づく。
「エッジ!」
「よぉ、リディア。送っていってやるから乗れよ」
助手席のドアの鍵を開け、リディアを誘う。
「いいの?」
「ほら、早くしろよ!」
エッジに急かされ、そのまま助手席に乗り込むリディア。一応エッジとは知り合いなので、さほど警戒しない。
リディアがドアを閉めたところで、信号は赤から青に変わる。マニュアルシフトの軽トラを慣れた手付きで操作し、アクセルを踏む。
「お前んち、M町だっけ?」
「うん。エッジの家はE町だから、反対方向になっちゃうよ」
心配そうに声をかけるリディア。エッジはいいってと一言返すと、彼女の家に車を向ける。
「納品終わったし、これから帰って寝るだけだからよ。たまには大人に甘えろよ」
「うん……ありがとう」
か細い声で礼を言う。
その様子がいつもの闊達な彼女らしくないので、さすがのエッジも気になったのか、思わず訊ねた。
「あのさ、リディア。何かあったか?」
弾かれたようにリディアの肩が揺れる。怖ず怖ずと顔を上げると、何処か相手を探るような目で、エッジを見つめる。
「な、何でそんな事思うの?」
微かに声が震えている。するとエッジは一言だけ。
「元気ない」
「………………」
返事につまるリディア。やや俯き、キュッと唇を噛んでいたのだが、やがて耐えきれなくなったかのように嗚咽を漏らし始めた。
「……ひっく……えっく……ううう……ひっく……」
「え?ちょっと、おい、待て、何でだよ!!」
急に泣き出したリディアに、慌ててしまうエッジ。
今自分、何か言ってはいけないことでも言ってしまったのか?
自分、何か不味いことでもしてしまったのか?
事情がわからず混乱する。
二人きりの車内で女の子が泣いているのは、神経が酷く摩耗する。
「参ったなぁ……」
ボリボリと頭をかく。女の子の慰め方なんて、わかるわけない。
気まずい雰囲気の中車を走らせていたところ、道沿いのファミレスが目に入る。
エッジはフゥ……と息を吐くと、ポロポロ涙をこぼしているリディアに告げた。
「取り敢えず、甘いものでも食って落ち着けよ。俺でよければ話聞いてやるから」
エッジの申し出に、リディアは首を小さく縦に振った。

エッジは愛煙家なのだが、今日はリディアを気遣って禁煙席である。
灰皿がテーブルにないのは落ち着かないのだが、女子高生を喫煙席に連れ込むのも可哀想だ。
「俺はたこ焼き。リディアは?」
「ソフトチョコレートパフェ」
「かしこまりました」
注文を受けて去っていく店員の姿を見届けた後、お絞りで手を拭きながら、未だに涙を頬に伝わせているリディアを、エッジは困ったような顔で眺める。
泣いている女子高生と、作業着姿の若者。
キャラリーの想像力をたっぷりとかき立ててくれる組み合わせではあるまいか。
『俺、まるで悪い奴みてーじゃねぇか』
さっきの店員も色々考えていたのだろうなぁ……と思うと、頭が痛い。
「で、いきなり泣き出すなんて、何か嫌なことでもあったのか?」
極力優しい口調を作り、目の前の美少女に語りかける。
するとリディアは可聴域スレスレの声で、
「……ペン」
「ペン?」
鸚鵡返しに問い返すエッジ。
リディアは返事の代わりに鞄の中から紙包みを取り出すと、テーブルの上で広げてみせた。
するとその中には、ボディの部分が何かに踏みつぶされたようにひしゃげた、アルミ製のボールペンが。
ついつい瞬きするエッジ。
口金と一体化したグリップは無傷だが、ペンのお尻の部分が見事に踏みつぶされている。
「こりゃひでぇな……」
何をどう間違ったらこうなってしまうのか。
リディアの話では、授業中にペンを机から落としてしまい、拾おうとしたら、……通りかかった教師に踏みつぶされてしまった……とのことである。
「先生は弁償するって言ってくれたけど、これはお金で買えるものなんかじゃないの……」
リディアの頬を再び涙が流れる。それをおしぼりで拭いながら話を続ける。
「お母さんのね、形見なの。お母さんが仕事場で使ってたボールペンなの」
「そうか……」
エッジもリディアの家庭の事情は多少聞き及んでいる。
作品名:晴れた日の過ごし方 2 作家名:あまみ