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晴れた日の過ごし方 1

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act.3 我が恋はここに



夢というのは、見るものじゃなくて叶うものなんだ。
待ち合わせ場所のコーヒーショップで愛しい人を待ちながら、アンナはそう考える。
何十通ものメールのやり取り、何度かのライブハウス通い。
その度に心と言葉を交わし、そして一昨日。
家のパソコンでメールのチェックをしていたら、ギルバートからこんなメール。


アンナへ

お元気ですか?いつもメールありがとう。
学校の方はどう?アンナは勉強も頑張っているから、いい結果が出ていると思う。
今日はアンナにどうしても伝えたい事があってメールしたんだ。
明後日の日曜日、アンナと話がしたいんだ。
なので、駅前の喫茶店で11時に待っていて欲しい。
君にどうしても渡したいものがあるんだ。


このメールを受け取った時、アンナはモニターに浮かんでいる言葉が信じられなくて、何度も何度も読み返した。
間違いじゃ、ない。
確かに、会いたいと書かれている。
じわじわと、じわじわと、アンナの全身を歓喜が満たしていく。
あの愛しいギルバートが、憧れのギルバートが自分に渡したいものとは、一体何なのだろう。
メールを受け取って以来、アンナの脈拍はずっと、高速でビートを刻んでいる。
土曜日は一日中挙動不審で、父のテラはさすがに娘の様子が気にかかったのか、夕食時、
「アンナ、何かあったのか?」
「え?どうして?お父さん」
はっと父を見返すアンナ。その表情は、悲しいほど強張っていた。
父親に対する後ろめたさが、何処かにあったせいかもしれない。
テラはみそ汁をすすった後、
「何か困った事でもあったのか?」
「な、何もないわよ、お父さん」
作り笑いで取り繕ってみせるが、テラは丸眼鏡をキラリと光らせると続ける。
「お前、様子がおかしいぞ。何かそわそわしておる」
「明日は日曜日だもの。休みの前はやっぱり気持ちも高揚するわ」
「そうか」
それ以上テラは何も言わなかった。
その『だんまり』が、アンナには辛かったけれども。
でも。
アンナは折角の愛しい人との待ち合わせを、反古にする気にはなれなかった。
父親の事は愛している。
だが、父とは違う激しい感情で、ギルバートも愛している。
『お父さん、ごめんなさい。私、ギルバートを……愛しているの』
この2ヶ月。抱いていた憧れにも似た想いは、はっきりとした恋心に変化した。
メールで交わす言葉。ライブハウスでの短いやり取り。
『もっとたくさんアンナと話せたらいいな』
前回会った時、ギルバートはそう呟いた。
だがアンナは酷く残念そうな表情で、
『ごめんなさい、ギルバート。私がケータイ持っていれば……』
『いや、人それぞれ事情があるから仕方無いよ。でも……』
吸い込まれそうになるくらいに美しいエメラルドの瞳が、アンナを映す。
『いつかアンナがケータイ持ったら、毎日電話するよ。メールも送る』
『歌も聴かせてくれる?』
『勿論』
ほのかに微笑むギルバート。儚ささえ感じる美しさだ。
『アンナのために、歌うよ』
アンナの脳裏に、そのギルバートの笑みが浮かび、思わず赤面するアンナ。
『本当に綺麗な人よね、ギルバート』
彼の顔を思い浮かべるだけで、頬が赤くなる。
「アンナ、風邪でも引いたのか?顔が赤いぞ」
父に指摘され、慌てて頬に手を当てるアンナ。
「そんなに赤い?」
「リンゴのように真っ赤だぞ。洗面所で見て来い。お前はすぐに風邪を引くから、気をつけい」
娘を束縛する頑固オヤジだが、それは娘を心配するあまりの事。
テラはテラなりにアンナの身を常に案じているのである。
アンナがあれだけ厳しくされながらも父親を嫌いになれないのは、父が自分を誰よりも何よりも愛している事をよくわかっているからだ。
だから。
「大丈夫よ。部屋が暖かいから顔が火照っただけだと思うわ。いつも心配してくれてありがとう、お父さん」
面と向かって礼を言われると、照れてしまう。
テラは白くなった髭を頻りに撫でつつ、今度は自分が頬を赤らめる。
「と、とにかく。体には気をつけんか」
「そうね、気をつけるわ」
そう言ってはぐらかしたけれど。
「いつかお父さんにも、ギルバートの事をちゃんと話せる日が来るといいな……」
お父さんもギルバートも大好きだから、大好きなお父さんに大好きなギルバートの事を話したい。
「そんな日が来るといいな……」
願うような想いを抱いて文庫本を読んでいると、コーヒーショップのドアが開く。
作品名:晴れた日の過ごし方 1 作家名:あまみ