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晴れた日の過ごし方 1

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act.2 君にこそ心ときめく



6時間目の授業が終わり、ノートや教科書やらを鞄に詰めていると、クラスメイトで友人のアンナが声をかけてきた。
「リディア、ちょっといい?」
「どうしたの?アンナちゃん」
セミロングの髪を揺らして、顔を上げるリディア。
翡翠色の瞳に、栗色のロングヘアのアンナの姿が映る。
「リディア、今夜暇?」
「んー、特に予定はないよ?どうして?」
「今夜一緒にライブハウス行かない?」
と、鞄の中からチケットを2枚出してみせる。
チケットはライブハウスで販売しているもののようで、リディアが映画を観に行く際に購入するチケットより紙質も印刷もよくなかった。
オレンジ色の紙に、ライブハウスの名前、日時、出演バンドなどが記載されているが、バンドやその音楽シーンに興味のないリディアには、まったくさっぱりな名詞が並んでいた。
「これ、どうしたの?」
さっきから『どうしたの』ばっかり言っているような気がする……
友人に問いかけつつ、そんな事をリディアは考える。
アンナはやや声のトーンを落とすと、
「……見たいバンドが出るの。だからチケット買ったのだけど、私だけで夜出かけるとお父さん心配するから……」
「あー、アンナちゃんのお父さん、厳しいものね」
リディアもアンナの父親には何度か会った事がある。
昔は有名な大学教授だったらしいが、今は大学を辞め、家で古文書の研究本を執筆している。
歳を取ってからできた一人娘のアンナを、彼女の父は溺愛していた。
「夜にライブハウスに行くなんて言ったらお父さん怒るけど、リディアと一緒にお出かけするって言うなら、お父さんも安心するでしょ?」
「アンナちゃん……」
思わず肩で息をするリディア。
アンナの家の門限が厳しいのは、リディアも知っている。父が娘を心配するあまり、彼女の日常を束縛し過ぎている事も知っている。
だから。
「いいよ、アンナちゃん。一緒に行こう!」
パッと、電球でも灯ったかのようにアンナの表情が明るくなった。彼女は財布から小銭を取り出し、昇降口前にある公衆電話に向かった。
「家に電話してくるね!」
「じゃぁ、あたしも下駄箱行く!」
アンナは父親から携帯電話の所持を認められていなかった。
「あ、あたしもアスラ様に連絡しなくちゃ」
鞄の中から携帯電話を取り出したリディアは、メモリを呼び出すと養父母に電話をかけた。
「もしもし、アスラ様?リディアです。今夜はお友達と出かけるので、遅くなります。夕飯は外で食べてきます。はい、気をつけて行ってきます!」[newpage]
電車で二駅離れたところに、そのライブハウスはあった。
「King&Queen」と古めかしい看板が立っている。
「でも、意外だったな」
ライブハウスの向かいのファーストフード店で少々早めの夕食をとりながら、リディアが呟く。
「何が?」
「アンナちゃんがこういうところに来るのが。そういうのに興味があるようには、全然見えないんだもん」
「私も、自分でもそう思う」
カルピスウォーターの紙コップをテーブルの家に置くと、アンナは頬杖をつく。
その端正な口元には、柔らかい笑みが浮かんでいたが。
「半年位前にね、駅ビルに買い物に行ったの」
「うん」
「駅前でよく、若いバンドがパフォーマンスしているでしょ?私、そこで演奏していたバンドのメンバーに……」
アンナの白い頬や目元が、ほのかに紅く染まる。
ウーロン茶を飲んでいたリディアは、この品のいい大人しそうな友人が何故ライブハウス通いをしているのか、悟った。
「好きになっちゃったんだ」
リディアの言葉に、こくんと頷くアンナ。
その表情が、本当に幸せそうで。
女は恋で変わるというけれど、それは嘘じゃないんだなーと、妙な事をリディアは考えた。
「ねぇ、その人はどんな人なの?」
興味津々にリディアが問いかけると、アンナはますます頬を紅くして、
「とても繊細で優しい人よ。ギターの腕も歌声もとっても素敵なの」
「わぁー……」
「私よりも、とても綺麗なの」
「ハンサムなの?」
「ハンサムというよりも……美人って感じ」
「ふーん……」
友人の様子を見て、ついついニヤニヤしてしまうリディア。
どんな素敵な人なのだろう。アンナの言葉通りにイメージすると、絶世の美青年が出来上がる。
そんなに素敵な人が居るならば、絶対に見てみたい!
「ライブ、楽しみだね」
お世辞でなく、リディアは言った。

午後7時。いよいよライブ開始である。
今回は対バンイベントという事で、アンナのお目当て含めて全部で4バンドが出演する。
中には『とてもじゃないけれど、これ、金取れるレベルじゃないだろう……』といったバンドもあって、リディアは内心閉口していた。
「これ、酷いよね……。歌ヘタ!」
「パンクだから仕方無いわよ」
「そういう問題かなぁ……」
と、何かの拍子で一瞬後ろを向いた途端。
『?』
このライブハウス、最後方がドリンクバースペースになっているのだが、そのバーのスツールに……見知った顔が座っている。
何かの見間違いだろうと思ったが、確認のためにもう一度後ろを向く。
「あれ」
やっぱり、居る。
「何かあったの?」
心配そうに声をかけてくるアンナ。
友人が先程から頻繁に後を振り向いているのが気になったらしい。
ヘタクソな演奏やパフォーマンスから顔を背けているのだろうか?
リディアはなんでもないよと答えつつも、バースペースに腰掛けている2つの人影がどうしても気になっていた。
あれは、アレは間違いなく……。
『どうしてセシルとカインがこんなライブハウスに来ているの?』
リディアの知る限り、あの二人はとてもではないが、こういう場に姿を見せるような趣味はなかったはずだ。
『終わってもまだ居るなら、声をかけてみようかな』
そんな事を頭の片隅で考えていると、急にアンナに袖を引っ張られた。
「え?なになに?」
「出るの!ダムシアン!」
どうやらアンナの目当てのバンドは、ダムシアンというらしい。
リディアは後の二人がまだ気にかかったが、アンナの想い人にも興味があるので、ライブに集中する事にした。[newpage]
エンヤの“カリビアン・ブルー”のSEが鳴り響くと、フロアは大歓声に包まれた。
この様子では今夜のお客のほとんどが、このダムシアン目的らしい。
リディアの隣に居たアンナも、キャーキャー叫びながらピョンピョン飛び跳ねている。
友人の意外な一面を見たリディア。
あの大人しい、上品そうなアンナが、こんな風にはしゃぐなんて……。
『アンナのお父さん、テラおじちゃんは、これ知らないんだろうなぁ……』
アンナの父親の、白髪・白髭・丸メガネの風貌を思い出してしまうリディアである。
「うぉぉぉぉぉ!!!」
会場内の興奮が最高潮に達した。ステージ上にメンバーが登場したのである。
歓声と悲鳴の中、ドラムセットに座ったり、ベースを抱えるメンバー。
その度に大きな歓声が上がるのだが、それが最も大きかったのは、ギター兼ボーカルの彼が姿を見せた時だった。
「ギルバート!!ギルバート!!!」
横に居たアンナが、喉が張り裂けるのではないかと心配になるくらいの大声で、メンバーの名を呼ぶ。
ああ、あの人がアンナの好きな人なんだな……と、得心するリディア。
作品名:晴れた日の過ごし方 1 作家名:あまみ