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晴れた日の過ごし方 1

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act.1 二人でお茶を


居間からゲラゲラと笑い声が聞こえる。
現在テレビで流れているコント番組のネタに、笑いのツボにはまったものがあったらしい。
手元にあったクッションを叩いて、大笑いしている。
「ウハハハハハ!!くっだらないなぁー!!」
他愛もないネタでよくあんなに馬鹿笑いできるなと、鍋の中身を味見しながらカインは思う。
「何か面白いものでもあったのか?」
「ああ。ギルガメッシュ・ナイトってアホ番組なんだけど、司会のギルガメッシュって男の身なりが……笑っちゃうくらいに奇抜でね。バカバカしくて面白いんだ」
カインが台所からそう問いかけると、笑い声の主はそう答えた。
真面目で繊細そうな外見からは想像できないが、こういう面白いもの、ちょっとバカバカしいものも大好きで、先日も食事に行った際、店内のダンサーと共に華麗にダンスを踊り、同行していた友人たちを引かせていた。
街を歩けば10人中9人が振り返るような美形だから、そのシュールさはものすごかったのだ。
「で、カイン。ご飯まだ?」
「もうすぐできるが……お前」
ガスコンロの火を止め鍋をテーブルに移しながら、カインは訊ねる。
「マンションに帰らないのは、ひょっとしてお兄さんがヨーロッパから戻ってきているのか?」
カインからの問いを受けた笑い声の主は、こくんと頷く。
その端正な口元には、少々酷薄な笑みが浮かんでいたが。
「昨日の夜ね。とても気まずかった」
「だろう、な」
ため息をつくカイン。
ここの兄弟は昔ちょっとしたトラブルがあって、今でもあまり仲が良くない。
この男の兄の方は、弟と仲良くなりたいと思っているようなのだが、弟はやはり心に蟠りがあるためか、打ち解けた関係にはそうそうなれないらしい。
「電話すれば、飲みに行くくらいは誘ってやったのに」
「兄さんが帰ったからって外に出るのも、何だか兄さんに悪い気がしたからね。
気まずくても、一緒にご飯食べたよ。でも……」
「でも?」
話を聞き、相槌も打つが、作業の手は止めない。
炊飯器の中のご飯を、慣れた手付きで皿に盛りつける。
「でも、二日連続で気まずい夕飯もイヤだから、今日はカインの家に泊まるって言って出てきたんだ」
「そうか」
嘆息が、カインの硬質の唇からもれる。
カインは両親が遺した一戸建ての家に、一人で暮らしている。
そのため目の前のこの男は、昔からよくカインの家に泊まりに来ていた。
泊まりに来る……なんてレベルではない。
自分の家と言っても過言でないくらい、彼はカインの家に入り浸っていた。
ここ数年は隣町にある超高級マンション『ムーンパレス』で兄と一緒に暮らしているのだが、それでも彼は、カインの家で時間を過ごす事がほとんどだった。
「マンションに居ると、兄さんの部下の変な人がいっぱい来るから」
との事である。
「セシル、できたぞ」
カレーを皿に盛りつけ、友人を呼ぶ。
セシルは座布団から立ち上がると、居間の隣の台所に移動した。
「今日はカレーなんだ。いい匂いしてたよね」
「昨日スーパーで肉が安かったからな。日持ちせんから、早く使わんと」
「カインは頼りになるよ」
にっこりと笑ったセシルは冷蔵庫を開け、ドリンクヨーグルトの1リットル紙パックを取り出す。
本来ならカレーにはラッシーだが、ドリンクヨーグルトも結構いける。
「いただきまーす」
スプーンでカレーをすくい、口に運ぶセシル。
ゴロゴロしたジャガイモ、よく煮えた牛肉。
カレールーを何種類もブレンドし、ヨーグルトとリンゴで味を整えた絶妙な味わい。
「美味しい!!」
満面の笑みがセシルの綺麗な顔に浮かぶ。
一人暮らしが長いカインは、料理も上手い。セシルがカインの家に入り浸る理由の一つが、これである。
「本当にカインは料理上手だよね」
「一人で暮らしていると、イヤでも作らんとならんからな」
「今度ハンバーグ食べたいよね」
「自分で作るか、ローザに頼め」
「ローザは看護婦の仕事忙しいからさ。無理は言えないよ」
「……俺になら無理を言ってもいいのか?」
「僕とカインの仲じゃない」
にっこりと笑ってみせる。
カインは昔から、その笑顔に弱かった。
プイと顔を背けかけたカインに、セシルがだめ押しの一言。
「アテにしてるぜ、カイン」
澄んだ碧の瞳で、真っ直ぐに親友を見据える。
……綺麗な瞳に隠された、ちょっとしたシタゴコロ。
カインはこの晩、三度目のため息をつく。
「……ローザがお前を放っておけない理由が、何となくわかったよ」
「何か言った?」
「いや、別に」
言ったところでわかりはしない。
セシルはパンと勢いよく両手を合わせると、
「美味しかった!ごちそうさま!」
カレーを食べ終えた彼は洗いものを流しに運ぶと、きちんと洗い桶の中に冷やした。
「カイン、食べ終わったらそのままにしておいて。洗い物は僕がやるよ」
「ああ、任せた」
まだ食事の済んでいないカインはそれだけ告げると、黙々とカレーを口に運んだ。

夜も更け、そろそろ就寝時間である。
セシルはカインのベッドの横に自分の布団を敷いている。
普段は隣の部屋で眠るのだが、何かあるとすぐにカインの横で寝る。
一人で眠ると、子供の頃にあった嫌な事を色々思い出してしまうかららしい。
「お前、今でもお兄さんと生活するのはイヤなのか?」
灯りを消した後、カインが訊く。
セシルは毛布の中から目元だけを出すと、くぐもった声で、
「……いや……なわけじゃない」
枕の上に、セシルの銀色の髪が広がっている。
灯りのない部屋の中でも、彼の銀髪は鈍い光を放っていた。
「ただ、さっきも言ったけど、何となく気まずいというか……居心地が悪いというか」
「一人暮らしはしないのか?」
「フースーヤ叔父さんがね。兄さんと僕が別々に暮らしていると、寂しそうな顔をするんだ」
カインの視線から逃れるかのように、ゴロンと寝返りを打つセシル。
「今となっては数少ない身内だから、あまり悲しませたくないし」
「大人の男が一人暮らしをさせてもらえないというのも変な話だな。俺など学生の時に両親が亡くなったから、それ以来ずっと一人暮らしだ」
最近は居候が居るから、実質二人暮らしだけどな、と付け加えるのを忘れない。
その皮肉をセシルは軽く聞き流す。そして、続ける。
「だから、どうしてもここに来てしまう。逃げ場所として、ここに来てしまう……」
「そうか」
セシルとセシルの兄、そして二人の叔父のフースーヤとの間には、第三者が知りえぬ何かがあるようなのだ。
いくら親友とはいえ、踏み込んでいい事と悪い事の区別がついているカインは、それ以上何も言わなかった。
布団の中に潜り込むと、低い声で告げる。
「もう遅い。今夜は寝るぞ」
「そうだね。おやすみ、カイン」
セシルも毛布をかぶり直し、静かに目を閉じた。
瞳を閉じた後、いつもいつもカインに甘えていて悪いな……とか、兄さんと上手くやっていける日が来るのだろうか……とか、セシルは色々考えていたのだが、気がつけば意識は闇に溶け込んでいった。
作品名:晴れた日の過ごし方 1 作家名:あまみ