二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

日常ワンカット

INDEX|8ページ/22ページ|

次のページ前のページ
 

処女宮編


決して、アイオリアとシャカは大親友というわけではない。
無論、同じアテナの聖闘士としての仲間意識や連帯感はあるが、個人的に一緒に食事に行ったり、シュラとアフロディーテのように同じスポーツを見物に行ったりする事もない。
しかし、アイオリアが守る獅子宮の隣が、シャカの守る処女宮だったりする。
そのため、アイオリアはちょっと誰かと話をしたくなったときは、シャカのいる処女宮に足を向ける事が多かった。
すぐ下の巨蟹宮に行かないのは、家主の趣味か、宮内が本格的ホラーハウスにリフォーム済みだからだ。
気味の悪い場所へ好き好んで行くような趣味は、アイオリアにはない。

シャカは大抵、処女宮の奥で瞑想中、もしくは沙羅双樹の園で神仏と対話をしている。
端から見ると眠っているようにしか見えないが、そこを突っ込むと問答無用に六道に落とされるので、誰も何も言わない。
たとえ、沙羅双樹にハンモックを引っ掛けて、袈裟を上掛け代わりにして意識を飛ばしていたとしても、決して昼寝をしていると言ってはいけないのである。
「おい、シャカ」
その日、隣の獅子宮からやって来たアイオリアは沙羅双樹の園にやってくると、ハンモックの上で神仏と対話していたシャカの邪魔をした。
「シャカよ、神仏との対話とやらは終わったか?」
どこからどう見ても昼寝なのに、アイオリアは律儀に『神仏との対話』という。
シャカはアイオリアのそんな所が、嫌いではなかった。
「アイオリア、私の神仏との対話は、中断する事はあっても終わる事はない。このシャカ、まだまだ悟り切れぬ事もあるのでね」
と、彼特有の少々高慢ちきな口調で答える。
アイオリアはすまなかったと一言詫びると、ハンモックの前に座った。
「少々お前と話をしたくてやって来た」
「君がかね」
シャカの言葉には、またかというニュアンスが1ナノグラムほど含まれていた。
アイオリアのいう『話をしたい』は、とどのつまりは『話を聞いて欲しい』という意味なのだ。
アイオリアの事だ、多分、恐らく、いや絶対、話を聞いてもらうまでは帰らない。
経験からそれを知っているシャカは、ハンモックの上で寝返りを打つと、話すように促した。
するとアイオリアの表情が劇的に変わる。
まるで皮膚の下を流れる血液が発光しているかのようだ。よほど誰かに聞いてもらいたい話があったのだろう。
さて、その話の内容だが、実に他愛無いものだった。
先日ムウと北欧に出掛けた事。
その後グラード財団の子会社絡みの仕事で下着モデルに挑戦した事。
下着モデルはとても評判がよく、オファーが殺到している事。
教皇としては一回で終わりにするつもりだったのだが、アテナ側が妙に乗り気な事。
それらを少年のような笑顔で嬉々と話すのである。
人と話すのが、楽しくて仕方ないといった様子で。
『アイオリアが楽しそうに人と話すだって?それも仕方ないかもなぁ』
いつだったか、シャカがミロと顔を合わせた際にその話をすると、ミロはしみじみと言った。
『お前はあの頃はガンジス川の畔で暮らしていたから、あまりよく知らんかもしれんが、アイオリアはガキの頃は話相手がいなかったんだよ。逆賊アイオロスの弟と呼ばれててな。だから、黄金聖闘士の中でもちょっと浮いていたんだぜ。今は話相手が沢山出来て、あいつも嬉しいんじゃないのか?』
『君はアイオリアとはあまり話さなかったのかね?』
シャカが問うとミロはばつが悪そうな顔で、小さく頷いていた。
……アイオリアが嬉しそうに自分に話をするのを見ると、そんな事を思い出す。
「……というわけなのだ。俺としては教皇のお気持ちも分からんでもないが、出来ればアテナのご意向に添いたい」
「ふむ」
目を閉じたまま、相槌を打つシャカ。
こういう、ありあふれた日常の話を、よくここまで幸せそうに話せるものだな、とシャカは思う。
誰かに話を聞いてもらえて、そして反応が返ってくる。
それがどんなに幸せな事か、神仏という対話相手が常に存在するシャカは失念していたようだ。
『話相手がいる幸せ、か』
端正な口元を綺麗に曲げたシャカは、体を起こすとハンモックから降りる。
シャカの突然の行動に、軽く眉を動かすアイオリア。訝しげに顔を顰めた同僚に、シャカは宮の中に入るよう促す。
「たまには茶でも入れよう。来たまえ」
「シャカ?」
あのシャカがこんな事を言ってくるとは思わなかったので、アイオリアの顔の筋肉が一瞬固まる。
だがすぐに、これでもかというくらいに緩ませると、弾むような足取りでシャカの後についていった。
作品名:日常ワンカット 作家名:あまみ