Yuming Brand
中央フリーウェイを走りながら俺は助手席の妻に言った。
今日は10年目のアニバーサリー、悲しいほどお天気だ。
ひこうき雲が一筋、青空を切り裂いていたが、それも薄れかけている。
まるで俺たちの間に入った亀裂が消えていくかのように
ふたり、幸せになるために精一杯努力してきたつもりだった。
だが、俺は少し勘違いをしていた、裕福な暮らしばかりが幸せではない、俺はビジネスと言う名のフロアで輪舞曲(ロンド)を踊ることに夢中になりすぎていたようだ。
冷たい雨が降る晩だった、仕事絡みの接待で遅くなった俺をまちぶせていたのはバスルームに残されたルージュの伝言、まるで返事はいらないとばかりの……。
(しばらく実家に帰ります、あなたに少しだけ片想いしていただけだったみたい)
妻は高校時代の同級生。
妻が出て行った夜、俺はふと卒業アルバムを手にした。
卒業写真の妻はやさしい目をしている、まるでメトロポリスの片隅にひっそりと咲くダンデライオンのように。
そんな彼女を守ってあげたいと思う気持ちは、高校時代から今まで変わっていないつもりだ。
朝陽の中で微笑んでいた横顔。
ダイヤモンドダストを見つめていた澄んだ瞳……。
雨のステイションでこぼした涙……。
俺のサンタクロースの扮装にはじけた笑顔……。
埠頭を渡る風に吹かれていた黒髪……。
そして、ソーダ水の中を通る貨物船を、ふたり見ていたあの日……。
やさしさに包まれたあの日に帰りたい……俺の中でリフレインが叫んでいた。
「これからはもっと君との時間を大事にするよ」
「私こそごめんなさい、あなたが私のことを思ってくれてるのはわかっていたつもりなのに、心に降る霧雨でそれが見えなくなっちゃってたみたい……」
俺が左手を伸ばすと、彼女はその手に右手を重ねてくれた。
もう一度……春よ、来い。
The End
作品名:Yuming Brand 作家名:ST