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『掌に絆つないで』第二章

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Act.01 [幽助] 2019.6.18更新


北神たちに情報を集めさせ、躯の移動要塞である『百足』の位置を掴んだ幽助は、霊界獣を呼んだ。
「よしよし。プー、躯んとこへ飛んでくれ」
霊界獣は彼に擦り寄った後、首をもたげて背中を出来る限り地に寄せる。
先に背に乗った幽助が雪菜の手を引いて乗せてやると、プーは翼を広げ地を蹴った。
霊界獣の背で雪菜に聞いた、飛影の出生。出会って百年近く経過してから、初めて知ることばかりだった。

天空に浮かぶ城。そこは氷女たちだけが棲む、雪に閉ざされた氷河の国。
その中で一人の氷女が別種族の男と成した子どもは、男と女の双子。本来、女しかいないはずの国で生まれてしまった男の赤ん坊は、忌み子と呼ばれて空飛ぶ城から放り投げられた。
それが、飛影。
「垂金の屋敷から逃がしてもらって、氷河の国へ戻りました。そのとき、初めて知ったのです。兄の存在を」
着物の袖を風になびかせながら、雪菜はまた片手を胸の前で握り締める。
そして種族存続のために、自分の兄を捨てた一族を恨む気持ちもあったと告白した。
「長老たちが恐れている通りなら、探し出して氷河の国へ案内しようと思っていました。例えその後、氷河の国が惨事に見舞われても構わない―――と」
母を亡くし、兄を捨てられた真実を聞かされたことで、敵にさえ優しすぎる雪菜がこれほど思いつめていたという事実に、幽助は驚いた。その胸中に隠された闇の部分が、出会った頃の飛影を思わせる。やはり彼らは、同じ血を通わせている兄妹なのだ。
「兄と同じ炎の妖気を持つ飛影さんが、もしかして兄ではないかと…考えたこともありました。でも、飛影さんは兄と名乗り出てはくれなかった。だから、人違いだったと諦めていたのです。いえ、諦めることが出来たのです。私は、お兄さんに会って、確かめたいことがあっただけでした。それを飛影さんに気づかせてもらったのです」
「何を確かめたかったんだ?」
「お兄さんは、本当に一族を恨んでいて、滅亡を願っていたのかどうか……」
「それを、飛影に聞いたのか?」
「兄を捨てた国など滅びてもいい、と言いました。それに対して飛影さんは、国を滅ぼしたいなら生きているかどうかわからない兄に頼らず自分でやれ――と、私に言ってくれたのです」
なるほど飛影らしい答えだ。
「お兄さんは長老たちが言うように、氷河の国を恨んで滅ぼすために探し出そうなんてしてはいない……。そう信じていながらも、ずっと、わだかまっていました。そこへ飛影さんの一言は、まるで本当のお兄さんが言ってくれたようで………私は兄探しをやめました」
霊界獣の背で柔らかな髪をなびかせながら、雪菜は穏やかに微笑んだ。
「飛影さんではない本当の兄が見つかることよりも、飛影さんが兄だったと言い聞かせていた方が幸せでしたから」
彼女の気持ちはすんなりと胸に響いた。
「よかったな、飛影が兄貴で」
「はい」
「それで……今の話だと、氷河の国は飛影を追い出したんだろ? 今更、戻って来いって言ってんのか?」
「いいえ。氷河の国へ連れて行こうとしているのは、私の独断です。会わせたい人がいるので」
「会わせたい人?」
雪菜が胸の前で握る拳に力が入る。
ひととき間をおいた後、彼女はゆっくりと口を開き、「母に」と呟いた。
つい先ほど、死んだと聞かされた飛影の母。会わせるというのは、墓参りのことなのかと彼は解釈していた。

そのときの幽助はまだ知らなかった。一度自分の中に取り込んだ、未知のエネルギーをはらむ玉が、「復活の玉」という別名を持つということを。