戦え! ライダー!
突風に煽られ、竜はバランスを失った、風神が雷神に加勢して突風を竜に見舞ったのだ。
竜は落下する途中でバランスを取り戻し、今度は地上のアベノセイコめがけて急降下。
「「危ない!!」」
ライダーマンがセイコを庇って地面に伏せるのと、ライダーがジャンプして竜の腹を蹴り上げたのは同時だった、進路をわずかにずらされた竜は、その鉤爪で辺りの木を数本なぎ倒して再び上昇した。
「ライダー、見たか? あの木を」
「ああ、すっぱりと切れているな、あの鉤爪にかかったら我々でも真っ二つだな、それに俺のキックでも竜の腹はビクともしなかったよ」
「マッスルがじきに到着すると思う、それまでなんとか持ちこたえなければ」
「ああ、とにかくセイコを守るのが第一だ、今回に限っては専守防衛だな」
「だが、心強い味方もいる……」
ライダーマンは空を見上げた。
空中では再び風神雷神のコンビと竜の戦い、しかし操られて見境がなくなっている竜と、竜を傷つけたくない風神雷神ではおのずと勢いが違う、風神雷神は押され気味の上、二人がかりの攻撃を受けてバランスを失えば、竜は再び地上を襲う。
激しい戦いが続く中……。
「待たせた!」
突っ込んで来た大型トラックが急ブレーキをかけてタイヤを滑らせ沼に横付けになった。
「ご注文の品はこれでお揃いかな?」
「ああ、これでいい!」
「だが、こんなものをどうするんだ? まさか戦闘の景気づけにするんじゃないよな」
「説明は後だ、とにかく片っ端から鏡割りだ!」
ライダーマンがマッスルに頼んだもの、それはトラックの荷台いっぱいの樽酒。
セイコのガードをライダーに任せて、マッスルとライダーマン、そして助手席に乗っていたレディ9が片っ端から樽を開けて行く。
あたりに漂う酒の匂い……それは空の竜にも届いた。
「お待たせ、冷で良かったかしら?」
レディ9の声に振り向くと急降下する竜、だがもちろん狙いはレディ9ではない。
ザブン!
竜は堪らずに咥えていた玉を落として樽に頭を突っ込む。
プハー!
一気に一斗の酒を飲みほした竜は天を仰ぐ、その眼はすっかり元通り、いや、むしろ喜色満面だ。
それを見届けて風神雷神もほっとしたように顔を見合わせ、そして声を揃えて言った。
「お~い、我々にも一樽くらいは残しておけよ!」
「上手く行った……」
ライダーマンもほっと胸をなでおろした。
「なるほど、こういうことか、ヤマタノオロチもこれで退治されたんだったけな……確かにこの匂いには惹きつけられるってもんだ」
マッスルも鼻をクンクンとさせているが……。
「あなたはダメ、大型免許を持ってるのはあなただけなんですからね」
レディ9にすかさず釘を刺されてしまった。
とにもかくにも、竜は正気を取り戻し、危機は去ったのだ。
「油断したよ、地獄大使を取り逃がしちまった……」
ライダーが残念そうに戻って来たが、ライダーマンはその肩をポンと叩いた。
「この玉を持ち帰って分析すれば奴はもう同じ手は使えないよ、まあ、今回はそれで良しとしよう……専守防衛の厳しい戦いだったしな」
「ああ、そうだな……」
ライダーチームが視線を送った先では、竜と風神雷神が揃って久方ぶりの酒に酔いしれていた……。
「う~ん……まだ酒の匂いが漂ってるな、すきっ腹に染み入るようだぜ」
トラックを返却に行く最中、マッスルはいかにも残念そうだ。
何しろトラックの荷台いっぱいに積み込んだ一斗樽を次々と飲み干す豪快な酒盛りを目の当たりにしたのだ。
「うふふ……今はダメよ、アジトに戻ったらね」
「おっ……流石に気が利く」
助手席のレディ9は、シートの下に隠してあった一升瓶をそっと取り出して見せた。
自然界には人智の及ばない不思議がまだまだある、それを利用しようとするショッカーの所業は自然への、ひいては人類への冒涜だ。
ショッカーを壊滅したその時、ライダーチームは本当に心から美味い酒が飲めると言うものだ。
戦え! ライダーチーム! 心から酔えるその日まで……。
(終)