“今、歯を磨くと死ぬよ。え、どーして。口の中にエサが無くなるからよ。” 俺は、母親のひどい言葉を思い出して憂鬱になった。時々、そういう世間の大人と違うことを言ったりする変なところのある人だったからだ。その上、バカ笑い話にしようとした俺の彼女の言うことに、“飴玉を入れておけば平気。” なんか、女性の間で信じられている都市伝説的なことらしかった。バイキンくんの話も本当だとかいうし、俺の口から何か出たのを見たのかすら、と思う程の確信に満ちた口調の女達だったな。しかし、と俺はちらっとその都度かすめる「今、歯を磨くと~」について深く思い出すことをやめていた。確かそれは悲しいことがあった後のことで、あの時は。
グブグブ、ペッ。口の中のばい菌を吐き捨て、さらに奥にブラシを突っ込む。今流れていった中に奴らがいたとすると、殺人罪ということになる。きっとそう解釈されるに違いなかった。汚ねぇ話。俺は苛立って考えた、なら、奴らは報復罪だ。