赤狭指村民話集成
なまぐさ坊主のとんち
むかしむかし、潮音地方のとあるお寺に好念さんという坊主が住んでいました。
好念さんは、和尚さんもほめるくらいの働き者でしたが、一つだけ悪いくせがありました。それは、お肉が大好きだったことです。
ごぞんじのとおり、当時のお寺のお坊さんは、お肉を食べてはいけませんでした。でも好念さんは、お寺に入る前に食べたお肉の味がどうしても忘れられないのです。
「あぁ、またお肉を食べたいなあ」
好念さんは、ほうきで門前をはきながら、いつもお肉のことばかり考えていたのでした。
ある日、お寺で大きな法事があったときのことです。お客さん用のおとき(食事)に、好念さんの大好きないのししの肉が入っていました。本来ならば、おときはお肉の入っていない精進料理を出すものです。しかし、お客さんの中に好念さんに負けず劣らずのお肉好きがいたようで、どうしても肉を出してくれとお願いがあったようなのです。
おぜんを運んでいた好念さん、こんな目の前にお肉があってはたまりません。ついつい一つ、ぱくりとつまみ食いをしてしまいました。
法事が終わって、好念さんは和尚さんに呼び出されました。
「これ好念。おぬし、おときの肉をつまみ食いしたな」
「……はい」
好念さんはあきらめて正直に返事をします。
「おぬしのようななまぐさ坊主には、おしおきをせねばいかんな」
好念さんはみぶるいしました。和尚さんのおしおきはおしりを棒でいやというほどたたいてくるので、とても痛いのです。好念さんは言いました。
「今日は亡くなられた方のめいふくを祈る法事があった日です。おしおきをうけるには日が悪いと思います」
「うーむ。確かにそうじゃ。では明日にしよう」
和尚さんも好念さんの言葉に納得し、おしおきを明日にのばします。
「明日も別の法事がございます。おしおきをうけるには日が悪いと思います」
「では、明後日」
「明後日は、先代和尚のお生まれになった日です。やはり、日が悪いと思います」
こうして、何日先に延ばしても好念さんは理由をつけて「日が悪い」というばかり。ついに業をにやした和尚さんは言いました。
「好念、おぬしはいったい、いつになればおしおきをうけるというのじゃ」
すかさず好念さんは言いました。
「私のような、なまぐさ坊主が死んだときでしょうな。これほどよい日はありませんて」
これには和尚さんも笑い出し、好念さんへのおしおきを止めにしたそうです。
好念さんはその後、えらいお坊さんになりました。しかし、お肉だけは一生止められなかったそうです。
(民話採取元:潮音郡 真田 シマ)