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新選組異聞 疾風の如く

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「明里、お前にはすまないと思っている」
「どないしはったんどす? 山南はんらしゅうおへんえ?」
「……らしくない、か」
「何かあったんどすか?元気出しておくれやす」
 この夜、山南は酔えなかった。新見錦の死後まもなく、筆頭局長・芹沢鴨が死んだ。賊に襲撃されての討ち死にという。
 ――いや、違う。
 導き出した結論を、彼は口にはしなかった。ただ、得体しれぬ不安だけは以前より増していった。

※※※
 
 この日、屯所の前に旗が掲げられた。
「おお、いい出来じゃねぇか!」
「何だよ、藤堂。お前、派手だなとか、言ってなかったか?」
「サノよ、お前ぇは変な所は覚えてやがる。忘れろや」
「まぁまぁ、いいじゃありませんか。原田さん、藤堂さん。新しい組名も最高ですよ」
「そうだな」
 旗は赤い地色に、白く染められた『誠』の一字。看板も『会津藩御預 新撰組』と書き直された。
「新しく選ばれた組――ですか」
「総司、あの旗の意味理解るか?」
「誠、ですか?」
「白は純真な心を表し、赤はうそ偽りのない赤心だ。口に出した事は最後まで貫く。そういう意味だ」
「確かに『誠』の字は、言う、成すが一緒になっていますね」
「今の俺たちにぴったりだと思ってな」
 江戸を経つ時、共に戦おうと決めた同士たち。選んだ『誠』の一字こそ相応しい。
 この旗は、今後も常に己に問いかけて来るだろう。己の心に正直に生きているか、と。