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百代目閻魔は女装する美少女?【プロローグ】

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昼なのか夜なのかわからない紫紺の暗さ。見ているだけで魂が引き込まれそうな気がする奥行き。広さは1000人以上収容できるホテルのパーティールーム以上で、真っ赤なペルシャ絨毯が敷き詰められている。ビリヤード、ビンゴ、スロットマシン、ダーツ、トランプ、麻雀、花札などができるスペースがある。ここはカジノのように見える。広間のいちばん奥にはひときわ巨大なルーレットが鎮座している。直径で20メートルは優にあるだろう。ナンバーの大きさだけでも1メートルはありそうだ。
話声は聞こえない。こういう場所で静かなのは違和感がある。この部屋で存在が確認できるのはわずか3人のみ。
うりざね型の顔をした執事が恭しく頭を下げて、声を発する。漆黒の髪を真ん中やや右から丁寧に分けて綺麗に流し、三日月の目が鋭利な刃物のように空気を斬っている。
「さあ、女王様。ルーレットを御回しください。次が控えておりますゆえ。」
 虎柄のソファーにどっかりと腰掛けて、シースルーに近い紫のドレスを着た妙齢の女性が答える。
「そうだね、李茶土(りちゃーど)。今回も軽い魂だよね。をねゐさんが適当に入れるだけで良いかな?」
「御意にございます。」
 執事・李茶土は黒服に白い手袋。背は高く痩せて見えるが、いわゆる『痩せマッチョ』と思われるような肉付きの良さと骨太が見て取れる。
ルーレットナンバーには『天』『地』だけしかない。いや、『?』というのがひとつだけある。しかし『?』に当たる可能性は非常に低そうだ。
「よし、スタートアップしてよ。」
「畏まりました。」
 黒服の執事が白い手袋をはめた腕を回すと、ルーレットが自然に起動し始める。ゆっくりと回転を開始したかと思うと徐々にスピードを上げてきて、バイクの車輪のようになってきた。しかし、音を発することなく、静寂は守られている。いつの間にか野球ボールくらいの玉が盤の上を回転に抗うように走っている。
『カラカラカラカラ、カラン』
 停止したところは『天』。
「天獄かあ。幸運と言えるのかな。」
「さあ、どうかな。さして変わるものとも思えないけどねえ。女王の思い過ごしじゃないの。」
 女王の右隣に立っている紺色の服を着たメイドが右腕をグルグル廻しながら答えた。執事に比べてずいぶん不遜な態度であるが、女王は特に気にかけた様子もない。
 女王は軽く立ち上がって、辺りを睥睨した。
「をねゐさんの後継者をそろそろ探さないとね。どうやらチカラが落ちてきてるようだし。このままではこのバベルの塔が減っていくもんね。いやすでにひとつ消えてしまったようだよ。」
「ご心配には及びません。これから候補者、いや『候補者見習い』を見つけております。その場所へすぐにご案内申し上げます。」
 執事が、心持ち頭を下げて、女王にそう回答した。
「そうなの。見習いなんだ。先は長そうだね。でも早く見たいものだね。」
 女王は柔らかい表情のまま、右手で軽く口を撫でた。