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クロトラ猫
クロトラ猫
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チェンマイの空の下 (2)暮の店じまい

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去年の大晦日。
近所の、行きつけの総菜屋が閉店した。
自家製のオカズや菓子を、鎧戸の外のテーブルに並べて売っていた小さな店。
近くのゴミ置き場に、調理具一式が捨てられているのを見て知った廃業。

切り盛りしていたのは、人の好い老夫婦。
旦那が80、奥さんが70になったのを機に、店をたたむことにしたという。
おばさんが、今の家に嫁いできたのが50年前。
その時以来、同じ場所で続けてきた誠実な小商い。

今後は、今まで離れて暮らしていた息子夫婦と同居。
義理の娘が切り盛りする、針子の店になるという。
許しを得て、店内に入った。
壁には、老夫婦の両親の黄ばんだ白黒写真が額入りで掛けられていた。
その近くには以前、自分が撮って渡した、孫との写真も。
両親の写真を背に、老夫婦の写真を一枚。

「ここでよく、菓子を買ったな」去来する、懐かしさと寂しさ。
店の奥ではすでに、ミシンの音がしていた。
「先程の写真、出来上がったら持って来ますから」。

「50年間、ご苦労様でした。これからも、お幸せに。」
私は、そう言って店を出た。