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美しい日本語を守る会 その6 流されそうです!

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あたくしは東京下町で生まれ育ちましたので、およそ「美しさ」とは無縁な日本語に囲まれておりました。
「ぼうず! この辺であすぶんじゃねぇよ!」
 とか
「なんだ、この値段は! べらぼうじゃねぇか」
 などですね。
 そして「ら抜き言葉」もごく自然に廻りに存在しておりました。ら抜き言葉は東京下町の方言でもあったのです。
「この実、食べれるんだぜ」
 友人は隅田公園のヘビイチゴをパクついておりました。
 その後、授業などで「美しい日本語」に触れる機会が増えるに従い「ら抜き言葉」から卒業したわけです。「オーストリア」と「オーストラリア」の区別もつきませんしね(^^)
 今では当然のように「ら抜き言葉」に対する違和感があります。かと言って小説の中で絶対に使わないかというと、そんなことはありません。いかにも「ら抜き言葉」を使いそうな登場人物には積極的に使わせます。それによって個性が際立つからです。ずるいっちゃずるいですね。

 落語には京都伏見と大坂を往復していた「三十石舟」を題材にした『三十石』という名作があります。
 この演題を皆さんはなんとお読みになりますか?
 答えの前にちょいと寄り道をいたしまして、次の例文をどう発音しますか?
1.待ち合わせは3時10分ね
2.寿司を20貫も食べてしまった
3.池に鯉が60匹もいる

 誰です!? そんな中途半端な時間に待ち合わせをするな、と言ってるのは。問題はそこではなく、「10分」「20貫」「60匹」の読みです。
 正しくは「じっぷん」「にじっかん」「ろくじっぴき」と読みます。決して「じゅっぷん」「にじゅっかん」「ろくじゅっぴき」ではないのです。
 日本語の「十」の読みには「じゅう」や「じっ」はあっても「じゅっ」はありません。
 全くの蛇足ですが、鯉は60匹(ろくじっぴき)で「一石(いっこく)」です。鮭が「40匹(江戸言葉では「しじっぴき」ですが今では「よんじっぴき」になってしまいました)」で「一石」でした。これは年貢米の代わりに鮭を納めていた関係です。鮭ではなく鯉を年貢の代わりに納めていた地方では鮭40匹の五割増しで鯉60匹で一石でした。今では忘れ去られてしまった数え方ですね。
 話を戻すと、落語の『三十石』はもちのろん(死語です)「さんじっこく」と発音しますが、今ではすべての噺家が「さんじゅっこく」と言っております、それどころか昭和の時代から圓生を始め多くの噺家が「さんじゅっこく」でした。昔の落語速記ではちゃんと「さんじっこく」と振り仮名があるのに……。
 今では「10分(じゅっぷん)」と発音するHNKのアナウンサーも珍しくなくなってしまいましたが、中にはきちんと「じっぷん」と発音する方もいらっしゃいます。
 それでも時代の流れ(?)には逆らえず、日常生活でもテレビラジオの世界でも「じっぷん」を聞くことは希になりました。
 いずれ「ら有り言葉」も「ら抜き言葉」に淘汰されてしまうのでしょうか?