小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

テレビのある家

INDEX|1ページ/1ページ|

 
「テレビが来たから、見に来い」

カズトシがいつのまにかそばに来て、ぼくの耳に囁いた。
村でテレビを持っている子はいない。自分の家にもない。
そういうものがあると、風の噂話で聞くだけであった。

小学校は一限目が終わり、休み時間に入ってざわめいていた。級友たちは校庭で遊んだり、教室や廊下でめいめい集っておしゃべりしている。
木造校舎のニスで黒光りする床は、誰かが走り通りすぎるたびに軋んで音をたてた。
木枠の窓は全開であり、小春日和の陽光が差し込んでいる。

そんな窓際の自分の席で、ぼくはひとり本を読んでいた。
そこにカズトシがやってきたのである。

カズトシは、それほど貧乏ではない家の子どもである。
もともと豪農の家であり、戦後は改革の影響で土地をかなり失ったとはいえ、それなりの財産が残っていた。それを元手に父親が都市部の工場に投資し、その後、特需でずいぶん儲けた、という話であった。

カズトシの家に比べるならば、ぼくも、級友たちのほとんども、貧乏だったといえる。もっとも、自分たちの住んでいる田舎町では、ほとんどがそんなものだった。

その後、ぼくたちは授業を受けたり、給食を食べたりした。
しかし不思議なことに、カズトシの家にテレビが来たことを、他の友だちはだれも知らないようであった。
ぼくだけに話してくれたのだろうか。
言ってはいけないような気持ちになって、うしろめたいような、わくわくするような気分になった。

放課後になった。
僕はカズトシの家に連れられて行った。
彼の後について、林の中の暗い小径を歩いてゆく。小径には落ち葉が敷き詰められていた。その先に古い家があった。

「まあ、あがれや」

家には誰もいないようであった。
ぼくは畳敷きの居間に通された。
居間にはテレビとおぼしき木箱が、台の上に据えられている。
なんとはなく、紙芝居の木枠に似ているなあと思った。

——テレビって果たしてこんな形をしていたっけ。

以前、はなしに聞いた様子と違うような気がするが、なにぶん実物を見るのは初めてなので、そういうものだと思うしかない。

「お菓子、持ってくるさ」

そういって友人は部屋を出てゆき、自分はひとり残された。

初冬の陽は傾き、外は薄暗くなってゆく。
友達はなかなか戻ってこない。

ふと気がつくとテレビの画面がうすぼんやりと明るくなっている。
ノイズが流れているようだったが、徐々に画像が現れてくるのがわかった。
ぼくは目を見開いて、それを見つめた。
作品名:テレビのある家 作家名:nankado