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偽娘玄奘 ジャーニャンゲンジョウ

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 寺門をくぐったところで、ちょうど日没となった。
 大雄殿へとつづく石だたみのわきに灯篭がふたつともしてある。いかにも頼りなげな薄明かりは宵の闇をいっそう暗く見せていた。砂漠の夜は寒い。一行はいそいで厩舎へ馬をつなぐと、本堂のとびらからなかへ踏み入った。
「わわっ、なんだこりゃ」
 先頭に立った孫悟空があきれたような声をあげた。大雄殿のなかは、とうてい仏殿とは思えぬくらいの散らかりようだった。旅人から奪い取ったらしい荷がやまと積みあげられ、割れた陶器やら食い残しが床に散乱している。しかも御堂のいたるところに人骨がころがっていた。
「なんてことするかな……」
 玄奘三蔵はその場にへなへなとくずおれた。ぺたんと女の子ずわりしたまま、ナムナムナムナムと一心不乱にお経をとなえはじめる。ご本尊が安置されているべき場所には、なんと街から盗んできたのであろうカーネルサンダースの人形が置かれていた。
 悟空は、猪八戒と沙悟浄のほうをふり向いて言った。
「このありさまだと、羅刹の仲間がまだどこかに潜んでいるかもしれねえぞ。おまえらちょっと調べてこいや」
「ええっ、オレもう疲れて動けないよ。それよりなにか食わせてほしいブヒッ」
「あては湯浴みがしとうおます。あたまの皿カラカラで、このままやったら干からびてまうわ」
 悟空は、文句を言うふたりの背中を押して回廊へと追い立てた。
「つべこべ言わず見回ってこい。食事や入浴なんてあとからいくらでもさせてやるから」
「セッ◯スもね」
「わかった、わかった」
 ブツブツもんくを言う八戒と悟浄を追いやってから、悟空はいまだ念仏をとなえている玄奘に言った。
「お師匠さん、今日はもう遅いから供養は明日にして、庫裏でなにか食いもんでも探してきましょうや」
「うん……そうだね」
 玄奘はちからなく立ちあがったが、貧血でもおこしたのか不意にあっとよろめいた。あわてて悟空が抱き止める。とたんにふわっと良いにおいがして、悟空は軽いめまいを感じ、またしても股間がジンジンとうずきだした。
「だ、大丈夫ですかい?」
 声をうわずらせながら華奢な背中をさすってやる。
「ごめんなさい。今あれと一瞬目が合ってしまって……」
 玄奘の指さすほうに、生首がひとつころがっていた。僧帽をあたまにのせた法体だった。
「おそらくこの寺の住職だろう。明日まとめて荼毘に伏しましょう。それよりメシ、メシ」
 やおら悟空が手をのばし、ガバッと玄奘をお姫さま抱っこした。
「きゃあっ、ちょっとやめてよ恥ずかしい」
「いいじゃないっすか。おいらたち四人、愛でむすばれた師弟なんすから」
「やだよ、降ろしてェー」
 足をバタつかせる玄奘を抱きかかえながら悟空が大雄殿を出ようとすると、ちょうどとびらのむこうから八戒があらわれた。
「あっ、ズルいな兄貴ばっかり」
「へへん、一番弟子の役得ってやつよ。それより首尾はどうだ、敵はかくれていたかい?」
「全員逃げたみたいで、もぬけの殻だったブヒッ」
 そこへ悟浄も月牙の戟をかついでやってきた。
「だれもおらへんわ。さっさと湯あびて乱◯パーティを楽しみまひょ」


 さていよいよ物語も佳境へ入り、この先はエッチシーンの連続が予想されるわけだが、残念なことに大東亜戦争のどさくさで資料のほとんどが消失してしまっている。作者としても資料がないと書けないわけで、決して続きを考えるのが面倒くさくなったということではない。
 いずれにせよ歴史の真実はいつの日にか暴かれるであろう。
 そのときまで、読者諸兄の妄想ライフに、幸あれかし――。


          〈終劇〉 あ、石を投げないで……