俺の青春・・・・ 前編。
(ああ、一昨日採用通知が来た)
(担任の先生には話した?)
(一応ね。でもカマキリのことだから、一応は説得はされたけどな)
(ご両親はなんて?)
(特に反対も賛成もしなかったな。お袋はあまり喜ばなかったけど、親父が『お前が決めたなら、お前の人生だ。好きにしろ』って、それでおしまいさ)
(そう、でも私はいいと思うな。何も考えずにのほほんと大学に行くより、誰かの為に尽くす仕事の方が、よほどカッコイイじゃない?)
(吉岡・・・・)
(しっかりね!訓練、大変だろうけど)
そこで、目が覚めた。
去年の大晦日から今年の正月にかけて、俺はこんな夢を見ていた。
一人っきりで事務所のソファで、年越しの酒盛りをしていたのだが、ついうとうとと寝入ってしまい、目が覚ますと平成最後の正月が開けていた。
ラジオからは頻りに『あけましておめでとうございます』が連呼されている。
頭がずきずきする。
酒には自信があったってのに、俺も弱くなったもんだ。
テーブルの上には空になったバーボンのボトルが横倒しになり、腹がはじけた柿ピーの袋が、中身をまき散らしてひっくり返っていた。
俺の名前は乾宗十郎。新宿でしがない私立探偵事務所を営んでいる一匹狼だ。
それにしても何であんな夢を見たのかな?
俺は立ち上がって顔を洗ってくると、ふと事務机の隅に一枚の写真・・・・校門の前に卒業証書の筒を持ったセーラー服姿の少女を写したスナップを見つけた。
(吉岡、弥生か)
吉岡弥生。彼女は俺の高校時代の数少ない友人だった。
ガキの頃から、俺には友達が少なかった。
親父の仕事の関係もあって(俺の親父は現役の自衛官だった)、転校が無暗に多かったせいもあり、更に無口で偏屈な性格だったためもあるだろう。
おまけに、行く学校、行く学校、どこでも『平和教育』とやらの洗礼を受けた。
特に嫌だったのが高校の教師、数学の担任で、あだ名を『カマキリ』と言った。
痩せていて力がない癖に、授業中に突如中断をして、訳の分からない平和論をぶち始める。特に俺が自衛官の息子だと分かると、てきめんに自衛隊の批判をぶち始める。
もっとも、似たような目には小学校入学以来ずっと遭わされてきたから、大して苦痛でもなかった。
そんな中で、高校に入ってからやっと希望が出来た。
それが、吉岡弥生だ。
彼女は地元ではかなり有名なスーパーマーケットのチェーン店の一人娘だったが、軍事や歴史にやけに詳しく、俺とはどういうわけかウマが合った。
三年間、ずっと同じクラスで、行き帰りもずっと一緒だった。
とはいえ、別に互いに意識をしていたわけじゃない。
単に仲のいい友達。それ以上でも、それ以下でもなかった。
夢の中で見たのは、卒業式の後で、互いの夢を語り合った時にした会話で、そう励ましてくれたのが、何となく嬉しかった。
続く
作品名:俺の青春・・・・ 前編。 作家名:冷主水