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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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堕とされしものたち 機械仕掛けの神

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 千歳は深く息を吐いて、『……まだだ』と心の中で呟いた。
「堕天者[ラエル]が会議をしても碌な会議にならないことはわかっていたわ――いつものことだもの。今日はお開きにしましょう、お疲れ様」
 会議テーブルに片手をついて、千歳は俯いたままもう片方の手で出口を指し示した。
 ルシエルの通信は切られ、ハイデガーも会議室を後にして行った。
 残された千歳は俯いたまま唇を噛み締めている。身体が振るえ、怒りが込み上げて来る。自分はまだルシエルの掌の上で踊らされている。そのことが彼女のプライドを酷く傷つけていた。
 身体が火照るように熱い。聖水[エイース]を欲している。怒りが渇欲に変わり、欲情に変わる。
 千歳は舌なめずりをして急いで部屋を出た。
 深夜のスコーピオン社には人は居らず、深々としている廊下はほとんど暗闇に近いほどの明かりしか点っていない。
 近くに人でも歩いていればすぐにでも吸血行為[ケトゥール]を行いたい。そう思うと千歳の身体は発作によって震えた。
 廊下の奥からライトの光が千歳を照らした。
 千歳にライトを照らしたまま近づいて来る人影は警備員のものだった。
「社長? こんな夜遅くにどうしたのですか?」
「これで我慢してあげるわ」
 千歳は女性の聖水[エイース]を好んで呑む。だが、目の前に立っているのは男。それでも千歳の手は動いていた。
 長く伸びた爪が太い首を締め上げ、男は声をあげる間もなく首をへし折られた。
 千歳は無我夢中で男の首に噛み付き、肉を喰い千切りながら大量の血を喉に流し込んだ。
 口から零れる紅い雫を舌で舐めた千歳は徐々に精神を落ち着かせていった。
 床に転がる男はエスに変異して怪物になることはない。もう、すでに息を引き取っているからだ。
 甘い吐息を漏らした千歳は再び歩き出し、隠しエレベーターのある場所まで向かった。
 エレベーターは社長室の中にあり、デスクに隠されたボタンを押すことによって壁の中から現れる。
 隠しエレベーターは地下に降り、一瞬止まったかと思うと横に移動する。この時のエレベーターの速度は時速一〇〇キロメートルを超えて移動している。
 キャンサー社ビルが建つ敷地内からはすでに出ていると思われる。いったいどこに向かっているのだろうか?
 エレベーターは緩やかに速度を下げて、やがて止まるとドアを左右に開いた。
 巨大な格納庫のような場所。
 千歳の足音が反響する金属やコンクリートでできた床。
 どこからか微かにモーターが回転するような音が聴こえて来る。
 千歳の足が止まった。
 ゆっくりと首を上げる千歳の視線の先にはライトアップされた巨大な何かがあった。それは巨大なヒト型をしたロボットであった。
 ヒト型と言っても、顔や手足や胴といった部位があり、二本足で立っているだけで、その姿は人間には似ても似つかなかった。これがスーパーコンピューター〈アルファ〉だ。
 〈アルファ〉のボディには曲線が少なく、塗装も施されておらず灰色をしている。ただ、所々に向けられる血管が浮き出たような模様からは蒼白い光が淡く輝いている。
 〈アルファ〉を見上げる千歳の口が綻ぶ。
「これはわたしの物……。そして、これを使ってわたしが王になるのよ」
 千歳の静かな笑いが格納庫の中に響き渡った。