赤ペンラブレター-その後-
添削されたラブレターを再提出。直してもう一度出してくれ、という事は分かるんだけど、どうにもその意図を図りかねていた。もしかしてからかわれているんじゃないのか? いやいや、仁科に限ってそんなことをするイメージはない。だけど、僕はまだ彼女のことはほとんど知らないじゃないか。それにまた書き直すにしても何と書けばいいのか。ヒントを得るために添削されたラブレターを見直すが、すでに出したラブレターを読み返すのは、なかなかの苦行だ。
かっこつけようと変に小難しい表現を使ったりしたが、「使い方を間違っている」の一言で一蹴されていて、顔から火が出るほど恥ずかしい。そのまま手紙を燃やしてしまいたい気分に陥るが、そのたびに手紙を裏返し、「再提出」の文字を見返した。この3文字は悩みのタネであると同時に希望でもあった。
もしかして気があるのでは? その考えが頭をよぎるたびに気が気じゃなくなるが、あの大量の赤字を見ると、そんなことはないだろうという冷静な自分のツッコミが入る。そうして、もやもやとした気分のまま時間だけが過ぎていた。そしてさらに悩ませるのが本人の様子だ。
その、肝心の仁科はどうしているかというと、以前の冷たい印象のまま特に変わった様子もなかった。ラブレターなんてなかったとすらいった雰囲気に、やっぱりあれは誰かのいたずらだったのではないかとすら思えてくる。いっそ直接本人に再提出に関して聞いてみようかとも思ったが、誰か近くにいる場所で聞くわけにもいかないし、かといって二人きりになるタイミングがあるわけでもない。しょうがないから手紙を書こうとするが、その内容に悩むといった堂々巡りが続いていた。
そんな状態が続いていたため、この3日間で受けたテストの結果も散々だった。数学では赤点になり、宿題のレポートも間違いだらけの為、何度も見たあの「再提出」の文字を見るはめになってしまった。親にどう説明をするか考えていた時、珍しいことが起こった。仁科もレポートの再提出を食らっていたのだ。
成績優秀な仁科が再提出になるのは珍しく、先生から名前が上がった時には軽く教室内がざわついたほどだ。だが、本人はいつも通り、澄ました様子でレポートを受け取った。そして自分の机に戻るときに、仁科と目があった。この数日は、どう接すればいいのかわからなかったため、まともに目を見るのは久しぶりだ。
すると、仁科はさっと目を背けるとレポートを丸め、足早に自分の席に戻った。心なしか、耳の先が赤くなっていた気もする。
その姿を見たとき、あの赤ペンは彼女なりの照れ隠しだったのではないか、とふと思い当たった。ただの都合のいい考えかもしれない。ただ、一つ確かなのは、今の仕草がとんでもなくかわいく見えてしまったという事だ。
それからは自然と書く言葉があふれてきて、ここまで悩んだことも含めて、仁科のふとした時に見せるかわいらしさが好きだという事を改めて書き綴った。
数日後、朝下駄箱を覗くと、前回と同じく、また自分のラブレターが入っていた。中を見ると、やっぱり赤字だらけだ。ほとんどが誤字や、表現の訂正だが、好きな理由について書いたところには「馬鹿じゃないの」との言葉とともに○がつけてあった。
裏を見るとまた、「再提出」の3文字。なんとなく、仁科の事が分かってきた気がする。
次の手紙にはなんて書こうか。と楽しみになりつつ、教室へと向かった。
こうして、文通とも交換日記とも違う、奇妙なやり取りが続いていくことになるのであった。
作品名:赤ペンラブレター-その後- 作家名:ト部泰史