「美那子」 歳上 三話
「ねえ、あなたも先にお風呂入りなさいね。酔っぱらうと入れなくなるから。それとも一緒に入る?」
「何言っているんだよ。子供じゃないんだよ」
「じゃあ、先に入って。私は後にするから」
秀一郎は若干の不安を抱きながら服を脱いで風呂に浸かった。
予想は当たった。
「やっぱり一緒に入る。ちょっと後ろ向いていて」
「やめろよ。すぐに出るからちょっと待って」
秀一郎の制止を聞かずに美樹は扉を開けた。背中を向けている秀一郎に笑いながら掛湯をして中へ入る。
大きな背中は男性としての頼もしさを感じられる。あんなに子供だった息子が嘘のように美樹には感じられた。
「お母さんも歳をとるはずよね、あなたがこんなに大きくなるんだから」
「おれ先に出るよ。恥ずかしいから下向いて」
「いいじゃないの。変なことしないから。それともお母さんに女を感じるの?」
「バカなこと言って。随分酔っているな、もうどうしようもないんだから」
「そうよ、どうしようもないの。お父さんに離婚された最低な女なのよ。不倫されても文句なんか言えなかった」
「母さんが先にしたんだから父さんの悪口は言えないよ。もう済んだことはくよくよしないで自分の将来を考えた方がいいよ。仕事先で素敵な男性は居ないの?」
「そうね、秀一郎の言う通りだわ。仕事先はデパートだからたくさんの男性がいるけど、独身となるといそうでいない。声を掛けられたのは課長さんぐらいかな」
「一緒にいた人だね。ちょっと歳が上だから母さんには合わないよ。年下の人の方が元気だから良いと思う」
「ええ?年下の男性が?何が元気だって言うの?まさか・・・」
「ゴメンそういう意味じゃないよ」
秀一郎は自分で言っておきながら恥ずかしくなって顔が赤くなっていた。
「赤くなって、もう。お母さんはそういうことを望んでいるんじゃないのよ。美幸さんみたいに若ければそういう面での不満が出るだろうけど、今は秀一郎がこうしてくれているだけで十分に嬉しいの。あなたが結婚したら寂しいけど孫でも出来たら気持ちはそちらへ移るって思うしね。今はお母さんとこうして仲良くしていて欲しい」
美樹はそう言うと秀一郎の背中に自分の身体をくっつけた。母親の柔らかい胸の感触が背中に伝わる。そして両腕を前に回してお互いの手をつないだ。
作品名:「美那子」 歳上 三話 作家名:てっしゅう