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藍城 舞美
藍城 舞美
novelistID. 58207
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指輪と男

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本編スタート


 ショッピングの帰り道、ユタカは道端に何か光るものを見つけた。それを手に取って見ると、真ん中に緑色の宝石のある指輪だった。
「この指輪、こんなにきれいなのに捨てちゃうなんて、もったいないよな」
 ユタカはそう言うと、あらためてその指輪を見つめた。緑色の宝石は、まるで「自分の持ち主になって」とでも言うように不思議な輝きを放っている。ユタカはその指輪が気に入り、自分の右手の人さし指にはめた。指輪は彼の指にぴったりと合った。
 
 しばらく歩くと、向こうからすらりとした体形の、20代前半とみられる女性が歩いてきた。彼女は黒い長髪の先にパーマをかけており、灰色のワンピースの上に豹柄のケープを羽織っている。ユタカは思わず足を止めた。女性のほうも彼に気付き、軽く頭を下げた。すると、彼女はおもむろに彼に近寄り、彼の右手を取って、言った。当然、彼はどきっとした。
「素敵な指輪をしてますわね」
 思わぬ誉め言葉を聞き、ユタカは笑みを浮かべずにはいられなかった。
「ああ、ありがとうございます」
 すると、女性はこんなことを言ってきた。
「私、緑色の宝石の似合う男性が好みですの」
 ユタカは照れながら言った。
「え、あ、あ、そうですか」

 彼女は、彼の顔を見ると、ささやくように言った。
「ねえ、明日の午後6時に松ヶ丘公園に来てくれませんか」
 突然の誘いに、ユタカはさらにどきりとした。しかし、これほどの美女に誘いを受けたからには、男として断るわけにはいかない。
「はい、いいですよ、行きます」
 女性は笑みを見せると、さらに言った。
「行くときには、あなたが今身に着けているその指輪をしてきてくださいね」
「…あ、はい」

 ユタカは帰宅後、自宅で1人興奮していた。
「キターーー!俺、美女に告られたー!!ラッキーボーイだーーー!」
 そして、指にはめている指輪に向かって言った。
「指輪さん、ありがとうな」
 その夜、完全に眠りに就くのに2時間もかかった。


 そして、翌日。紺色のスーツ調の服に身を包み、緑色のスカーフをネクタイ代わりに身に着けたユタカは約束の時間の5分前に松ヶ丘公園に来て、ベンチに座った。ほどなく、昨日出会った女性が、黒いワンピースに昨日と同じ豹柄のケープを羽織って公園に現れた。ユタカは、彼女の美しさにすっかり見とれた。突然、彼女は
「立って」
 と言った。彼はベンチから立ち上がった。
「もっと私の近くに来て」
 そのとおりにするユタカ。彼の鼓動が高くなっていく。

 女性と密着寸前の距離までいくと、ユタカはこれ以上ないほどの笑顔を見せた。女性もなまめかしい笑みを浮かべ、両手でユタカの首に触れた。そのときである。彼女はいきなり強い力で締め付けた。
(……!)
 ユタカは全身に鳥肌が立った。さっきまでとは違う理由で鼓動が高くなった。抵抗を試みたものの、女性の目を見た途端、体を動かすことができなかった。彼女の笑みは冷たいものになり、より強い力で締め付けてきた。彼は、ただ唇を動かすばかりであった。ユタカの脳裏に、過去の記憶がすさまじい速度でフラッシュバックした。彼は、こぼれる涙を止めることができなかった。
(そんな…俺、死ぬのかよ…。死ぬのは嫌だ……)

 ― ユタカの身体の一切の活動が止まった。


 女性は一旦手を離してユタカの体を支え、「お姫様だっこ」の状態にして抱えると、どこかへ向かって歩きだした。彼女の右手の人さし指には、ユタカがはめているものと同じデザインの指輪があった……。


                                   ― Fin ―
作品名:指輪と男 作家名:藍城 舞美