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スライダーの会
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Aprikosen Hamlet ―武蔵野人狼事変―

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 翌朝、アプリコーゼンは朝食会議を招集した。相変わらず同盟軍本隊と分断されている以上、議題も山積したままだ。最初に、部隊の再編が提案された。

十三宮顕「はあ…おはよう。さて、御覧の通り、今ここには大森軍管区第三・第四中隊が集結しているわけだが、集結と言っても、たった数名の生存者だけだ。そこで、縁あってこの場に導かれた諸君を、新しき義勇兵として再編成したいと思う。今この時を以て、我々は『アプリコーゼン中隊』の結成を宣言する!」

生田兵庫「…え?」

斎宮星見「そのまんま過ぎますよ…」

美保関天満「寒いです」

十三宮顕「…ま、そう言われるとは思ったけど、アンズは分類学上『被子・双子葉植物離弁花類バラ科サクラ属』だと事典に書いてあった。つまり、物凄く大雑把な言い方をすると、杏子は桜の姉妹みたいな位置付けになるわけ。僕は花言葉に疎いけれど、取り敢(あ)えず『花咲く春』的な門出(かどで)を迎えたい私達にとっては、まあ悪くない言霊かな…と思った次第だよ」

塔樹無敎「現状では、それで良いんじゃないですか? もし何か問題が発生したら、改名すれば良いわけだし」

十三宮顕「ありがとう。あ、それからハムレットは『小村』って意味だから、我々は『アプリコーゼンの村人』でもあります。では次に、今後の作戦方針に対し、美保関少弐の見解を伺いたく思いますが…」

﨔木夜慧「ちょっと待って下さい! その前に俺から、ガチで重大な議題がありますっ!」

美保関天満「夜慧、急にどうしたの?」

十三宮顕「了解、﨔木長門の発言を許可します」

﨔木夜慧「俺、ここに来る前に、今回の異変に関する投稿を集めていて…それで、気付いたんです。真実に」

生田兵庫「真実?」

﨔木夜慧「俺達は今、『食人種』と呼ばれる化物と戦争していますが、奴らは喋りますか?」

斎宮星見「あいつらはゾンビだ。ほとんど無言か、せいぜい不気味な鳴き声を吠えるだけだろ? 俺達が戦った奴らは、皆そうだった」

﨔木夜慧「確かに、多くの『優性感染者』はその通りです。でも、『劣性感染者』はそうじゃない…」

塔樹無敎「食人種の遺伝子にも、顕性と潜性があるのか?」

﨔木夜慧「はい。そして、劣性感染者は、普通の人間と同じように言葉を話し、社会生活に溶け込みながら、獲物が一人になった時、彼を喰い殺し、その人肉を食べているのです。まるで、昔話に登場する『狼人間』のように…」

美保関天満「そ…それって、つまり…『人狼』?」

﨔木夜慧「そう。そして、あの爆発を目撃し、巻き込まれた俺達は皆、食人種のウイルスを取り込んでいます。その中で、劣性感染者の発症する確率は…6分の1」

塔樹無敎「約16.7%だな。六人に、一人…!?」

生田兵庫「て、ゆう事は…?」

斎宮星見「お…おい、マジかよ…!」

 﨔木長門が何を言おうとしているのか、一同は既に理解していた。それを承知した上で、﨔木夜慧は改めて前を向いた。そして…。

﨔木夜慧「この中に一人…いや一匹、『人狼』が居ます。犠牲者が生じてしまう前に、『彼』を特定し、処刑すべきだと考えます。それが…俺からの、発議です」

 静かな、冷たい声が、アプリコーゼンの狭い四方に響いた。それは、ゴーストタウンの密室を舞台に、「魔女裁判」の開廷が言い渡された瞬間であった…。