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お姉さんは好きですか

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大人になれば…もう少し、楽しい人生が待ってるのかと思ってた。

何にもない…

寂しくて公園の片隅。
私…駄目だなぁ。
少し歌って…余計に寂しくなった。
「好きです…愛してる…全部幻…ね」
頑張り過ぎた?走り過ぎた?
ううん…私はただ生きてただけ。
周りの女の子は幸せになっていく。私を置いて。
夕陽って…寂しい。
「あの…隣良いですか?」
私は顔を上げた。
急に声を掛けてきたのは、女子高生。
「どうぞ?」
笑顔が眩しくて…可愛いなぁ。
「お姉さんて、とっても綺麗ですね」
…突拍子もない。
「そう?ありがとう」
「へへへ、本当ですよ?羨ましいぐらい綺麗。すごく綺麗!」
こんな風に言われると、少し困ってしまう。
「…アナタも可愛いわ」
「えへへ、ありがとうございます!」
嬉しそうに笑った後、少し大人びた笑顔を見せた。
「私…遠くへ行くんです」
「…そうなの」
急に変わった話に、私はとりあえず相槌をうつ。
「少し寂しくなっちゃって、そしたらお姉さんも寂しそうな顔をしてたから」
「そう?…まあ、そうね。少し寂しいかもしれないわね」
「お姉さんて、なんでも出来そう!」
「そ…そうかしら…」
「うん、なんでもバリバリこなしちゃいそう!羨ましいなぁ~」
「そんな事ないわよ。何でもできるなら、こんな所に座ってないわ」
「そうなんですか?」
「そうよ」
「信じられない!ん~、信じられないなぁ」
「そう?」
「うん。なんか…全部、お姉さんなら、ぜぇ~んぶ上手くいきそう」
「だったら良いんだけどね」
「ふぅ~ん…お姉さんみたいな人でも上手くいかない事あるんだぁ」
「そうよ…上手くいかない事だらけ」
私がそう言うと、彼女は急に立ち上がって私の前に来た。
「そんな事無いよ!そんな事無い。お姉さんみたいな人が上手くいかない事だらけ…だったら、私、困っちゃう」
真剣に言う彼女に不思議と笑いが込み上げてきた。
「んふふ…ふふふ……、そんな困るわ。本当に上手くいかないんだもの」
「嫌です!私…生まれ変わるならお姉さんみたいな人になりたい」
突拍子の無い事をまた言う。
「ふふふ…、ありがとう。そんな事言われたら、お姉さん…頑張らないとね」
見つめる瞳が…不安。
唇が重なった。
「お姉さんみたいな人に…なりたい」
行動と言葉が噛み合わない。
少し…だいぶ理解に困る。
抱きついて来て、私の胸の中で泣いている彼女。
どうできるわけでもなく、仕方ないと私は彼女の頭を撫でてあげた。
「お姉さん…みたいな人になりたい」
「私みたいになられても困るけど…アナタなら素敵な人になれるわ」
「嫌だ…嫌だよ。私、お姉さんみたいな人になりたい」
「駄目よ。私みたいな人間は…駄目よ」
どうして私は、そんな気になったんだろう。
それは、きっと私と彼女が違い過ぎるから。
彼女がしたキスとは違うキスを私は彼女にあげた。
「私みたいな人間は駄目。ね?」
彼女は自分の唇に触れて頬を赤くする。
「ううん…お姉さんは、私の理想。理想そのものだったよ?嬉しい」
「さっき会ったばかりよ?それで…こんな事しちゃうのよ?」
「先にしたの、私だもん。私の方が先でしょ?」
「んふふ…そうかもしれないわね」
「…最後にお姉さんみたいな人に逢えて…良かった。希望が持てちゃう。私、希望が持てたよ?」
「遠くへいくんだったっけ。寂しいわね…やっぱり寂しい。せっかく出会えたのに」
「お姉さん…」
「なぁに?」
「どうして私にキス…してくれたの?」
「可愛かったから…かしらね」
「好き…になってくれたって事?」
「そうね…分からない娘ではあるけれど、気になるわ」
「えへへ…嬉しい。ねぇ、お姉さん…少し我が儘言って良い?好きって言ってくれるなら、我が儘言っても…良いか…な?」
「なぁに?」
「お姉さんの好き…もっとちょうだい」
「キスが好き?」
「好きかも知れないし…先が知りたい」
「困った子ね」
「だって…嬉しかったんだもん。すごく嬉しいんだもん」
寂しさが、私の正常な思考を止めてたんだと思う。
寂しさを埋めたくて、私は求めてくれる彼女に同調してしまったんだと思う。
これは…本当の恋?愛?
きっと違う。

互いに寂しさを埋めたかっただけ。

彼女と手を繋いで歩いた街。
彼女と作った秘密。
それはまるで永遠みたいで、次も…いつか逢えるなんて淡い期待。
駄目よ。これぐらいの娘は、そういう事に興味があるだけなの…。
言い聞かせても、私の心は正常に作動しない。

寂しさの中に入り込んだ温もりは麻薬…。

「また…逢いたいわ」
「うん…私も逢いたい。けど…駄目なんだ!ゴメンナサイ…」
「そうよね…残念」
「……お姉さん」
「なぁに?」
「私がお姉さんみたいな人に生まれ変わったら、生まれ変わってお姉さんの側に行ったら、一緒に居てくれる?」
「ん~…私みたいな人だったら困っちゃうかな。今のアナタみたいな可愛い子の方が好き」
「…そうかぁ。次に逢うのは難しいかな?難しいかもしれない」
「どうして?」
「私…お姉さんみたいな人になりたいんだもん」
「今のアナタの方が魅力的なのに…」
「そんな事ないよ…そんな事、絶対にないよ…」
離れた手。
「私、行かなきゃ。もう行かなきゃ…だから、さようなら!」
声を掛けてきた時と同じ、眩しくて可愛い笑顔。
走り去っていく後姿。
私の方こそ…アナタみたいになりたいわ。

離れた手に後悔して、握り続けてなかった事に後悔する。
誰もが他人に憧れる。
憧れを抱いて、他人になりたくて魅かれるのかもしれない。

違う誰かになりたかったの。だから…少しでもそれを知りたかったの…。

暗闇を鳥が飛んだ。
遠くから囀りが聞こえる。
それは私の耳にだんだんと近づいてくる。

憧れを抱いて…次の場所に飛びたてるの…。

そのサイレンの音が私の心を乱す。
足が前に進まない。
サイレンの音が私を呼ぶ。
私は踵を返してサイレンのなる方へ走り出した。

最後に逢えて良かった…私の理想に。

まるで南国の色ね…赤いわ。
「やだ…見ちゃったよぉ~ッ!ウチの制服だった…やだぁ…」
あの娘と同じ制服の子が震えながら言う。
その言葉が聞こえてから周りの雑踏が遠くなっていく。
もう居ない。
ここには居ないのね。
どうして?
「馬鹿ね…私みたいになったら…話しかけてきても無視するから……」



END