小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
とーとろじい
とーとろじい
novelistID. 63052
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

磨き残しのある想像の光景たち

INDEX|10ページ/10ページ|

前のページ
 

5.0 アニメ最終話撮影現場



落ちてった。あいつ。戻ってこない。

「あーもう。順調に行ってるかと思ったらこれだよー。どうなってんのよもー」

最悪な最終回。あいつ落ちてった。

「何で落ちたんだ。落ちるところじゃないでしょう」
「何やってんだか。残念だけど、代わりはいないし、これで終わりだね」

あいつ、落ちた。本当に、何でだ。

「もう少しだったんですよ。惜しいなぁ。撮りたかったよ最後まで」

みんな。うるさい。うざったい。ハエ。

「でもまぁ、お蔵入りも悪くないっしょ。伝説だよこれ。死んだんだから。死ぬ予定のやつが」

死んでない。戻ってくる。これは嘘で、みんなは演技。

「ねむりのやつさぁ、ずっとあそこで固まってるよ。かわいそうにさ」

かわいそうなのは。かわいそうなのは、お前らだ。

「そっとしといてやれ。そりゃショックだよ。不意打ちすぎるし」

落ちた、ずっと落ち続けてるあいつの白い影が。
夢なんだこれは。今落ちてった。今落ちてった。今落ちてった。今。今。今落ちて、そこにある白い風、がある。あいつの影が、回ってる。足の下で。目の前で。落ちてるあいつの白い嘘の髪。

「でもほんと、これで打ち切りって、後味悪いですよねー。ツイートしたらRT貰えそうだけどさー。いいねはちょっと失礼か。あ、そうだ。なんならこれも映像にしちゃえばいいじゃんね」

うるさい。ずっと演技してる野郎。止まれよ。もう動くなよ。止まれよ。人形野郎。

「あのー。今ね、撮影中らしいっすよ。なんか裏で撮ってるって。ちょっと気をつけてもらっていい」

嘘つき。撮れないだろ。落ちたんだよ、あいつ。俺なんか撮って、面白いのかよ。

「絵がさ、やっぱ映えないんだわ。配置変えてもらえる? ねむりくんに言ってさ。草がね、邪魔でね」

穴の上の闇が、いつまでも揺れない。凍ってる。血も出ない。誰もいないこの穴で、あいつ、何してんだ。わかりやすいこんな穴で。楽しくないこんな暗いとこで。

「でね、もう脚本変えてね、これでいこうかっていう指示だから。了解取ってきて。ん、いやいや、彼に。当たり前じゃん」

巻き戻せない、嘘みたいな、話。足を滑らせた。穴があって、わかってて、どうして。何かが違う。蒸し暑い。ずっと暑い。変な、気温。演技。誰かがいる。裏の声が、指示が。何かをあいつに囁いた、熱。ここにいた熱。熱にハエがたかってた。嘘をついた熱。汚れてる、ここ。

「いい加減顔上げてくれる。ちょっとね長いよ」

使いっ走りの言葉。演技やってろ。

「ねぇ、聞いてる。ちょっと。これね本番始まってるんだわ」

誰かが作った無限の穴に、あいつを誘導したやつがいた。暑い。臭い。こいつらの口。絶対こいつらみたいなやつ。

「あ、音響さん。今はね、12話Bパート撮ってんの。蝉の声だけど、後で入れてね」

あいつは無限の穴の下。俺はその手前で。わからなくなって。あいつは綺麗な、白い嘘の髪の女。ロングヘアで、黒い制服着て。二人で来ていた。校庭の藪の中。
高校にモブと登校するさりげない演技、違う教室にいる演技、最初は冷たかった演技、清楚なフリしてた演技、本当はお茶目だったウブな女の子の演技、怒ったらハリセン持って叩いてきた演技、文化祭で失敗して涙流した演技、慰めたら顔を赤くした演技、いつからか恋をしていた演技。

積み重ねたそれら、落ちてった穴の中、ひとりで。