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炬善(ごぜん)
炬善(ごぜん)
novelistID. 41661
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CoC:バートンライト奇譚 『盆踊り』前編

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2、不気味なる演者たち



 広場の片隅にいたのは、二人。
 一人は、現地の人と思しき、甚平姿の初老男性。
 もう一人は、この場所には明らかに場違いな、OL風の若い女性。

 二人の男女の距離は、会話が不便な程度に離れており、彼らが赤の他人同士であることが伺えた。
 ひょっとすると、先ほどまでは会話していたのかもしれないが。

 真っ先に駆け寄ったアシュラフが、叫んだ。
「邪教を捨てよー!」
「やめ~や!」追いついたタンが、ペシンと頭を軽く叩く。

 初老男性と、若い女性は、きょとんとした様子であったが、警戒した様子は見られなかった。
(どんな子供かは、知る由もないであろうからこその反応であろう)

「お初お眼にかかる」手始めに、バリツは初老男性に語りかける。
「私はバリツ・バートンライト。冒険家教授だ」
「おばんです、私は踊三吉(おどり さんきち)というもんです」
 初老男性は、ゆったりとした、しかしながら余所余所しげな声で答える。

「ここはどこなのですか」
 紳士的に問う斉藤。
「ここは尾取村です。あんたがたは他所から来たんでしょう? 見りゃあわかりますよ」
「この邪教の祭典を今すぐやめなさい。神の裁きがくだりますよ」
「申し訳ない、この子はちょっと変わり者で……」

「あー、あの踊りはなあ」
 三吉は答える。
「村長の決まりでやっているんだ」
「決まり……? いや、ちょっと待って欲しい」

 バリツは訝るが、そもそもの疑問があった。

「我々はそれぞれの日常を送っていたところ、気づけばここにいたんだ。奇異に思われるかもしれないが……」
「はえ~、おかしな話だが、そうは言われてもなんもわかんねえ。なんにしても、こんな夜半に物好きなこったですよ」
 怪訝そうに答える。もはや信じてはいない節もある。
 しかしながら、無理もない反応と言わざるを得ないであろう。自分達ですら信じがたいのだから。

「ここの村長はどこに?」
 問う斉藤。
「村長なら、やぐらの上で太鼓を叩いてまさァ」
 三吉に指差され、一同は櫓を見上げる。
 小柄で細身な男が激しく大太鼓を打ちつける浴衣姿が、松明に照らされ浮かび上がっていた。

 太鼓のリズムに交じって、ややノイズがかかった賑やかな民謡もまた聞こえてくる。恐らく、村長の足元に再生機器があり大音量で流しているのであろう。 
 ここから大声で話しかけても聴こえそうにないのは明白であった。

 踊る村長の表情はよく見えなかったが、バリツはその不気味さに眉をひそめた。
 楽しそうに踊っているといった生易しいものではない。盆踊りというよりは、本場のコサックダンスにすら近いのではと思うほどだ。

 そう形容するだけなら、むしろ笑える案件であるかもしれない。
 だが、その漂う狂気。その肉体を省みない動き。
 糸に操られる人形さながらのそれは、どうしてもおぞましさが先立つのであった。
 
「三吉殿、この踊りはなんなのだ? その……率直に言って、とても危険な薫りを覚えるのだが」
「ああ」
 三吉が眉間に眉を寄せる。
「実のところ、私は昔っから踊りってのが馴染めんで。けど今やってるのは、いつにも増して不気味ですわ」
「平時とは違う、と?」
「この村では踊りは年がら年中。だけど、今回の踊りはやっぱりおかしいでさあ。なんというか……何かにとり憑かれているみたいな……振り付けにしても、今までのとはてんで異なりますわ。踊り嫌いな私でも分かりますよ」
「なるほど――」

 つまるところ。
 この「尾取村」は語感通り、どうやら踊りがもともと盛んであったらしい。
 しかしながら、此度の踊りは現地の住民――少なくとも踊りから離れている人――にとっても、異質なものであるようだ。

「しかし疑問なのだが」
 バリツが問う。
「踊り嫌いだというあなたが、何故こんな夜分遅くに?」
「普段は見ねえけど、今夜は流石に様子がおかしいでな。怖いもの見たさってやつか、嫌いが一週回ったのか自分でもよく分からんけど、見守ることにしたんですわ」
「成る程。三吉殿、感謝する」

 三吉に会釈し、バリツがもう一人の女性に眼を向けると、タンが既に語りかけているのが分かった。
「こんばんは~」
 女性に語りかけるタンは、思いなしか、バリツの目にはいつでも上機嫌に見えるのであった。
「俺、タン。君も、この村の住人なの?」
「こんばんは」
 女性は静かに答えるが、その目元には、不安の影が見えた。

「林茉莉(はやしまつり)です。いいえ、私は違うんです」
「え、っていうことは――」

 整った体つきの伝わる、グレーのスーツ姿は、成る程この村にそぐわない異色の産物――都会のものであった。
 しかし、栗色に染まった髪はどこかほつれ気味に思えた。まるで、準備もままならぬ間に、慌てて飛び出したかのように。
 あるいは……逆に、仕事を終えてリラックスしようとしていた矢先に、突如として外出を強いられたかのように

 即ち。

「君も我々と同じく怪異に巻き込まれたというわけだ」

 横から腕組の壷男、斉藤が会話に入り込む。
 林と名乗った女性は、露骨にどちら様ですかと言いたげな表情を浮べるが、続ける。
「そうなんです。私、仕事を終えて、家で料理をしていたら、いつの間にか意識が遠くなって……」
 所在なさげに呟く彼女は、腕時計を見やる。
「20時……ああ、やだ、火を消し忘れてしまったかも。どうしよう」

「きっと大丈夫さ」
「しかし、ひとまず情報が足りないな」
 バリツは顎に手を当てて唸る。
「まず手始めに村長に話を聞きたいところだが――」

「つまり、あの邪教徒どもの目を覚まさねばなりませんね」
 先ほどまでやたらと静かだったアシュラフが、ずんずんと踊りの輪へと距離を詰めていく。 
「え、あの、ちょ、待ちたまえアシュラフく」
 少女は聴く耳持たずである。

 アシュラフは踊りの輪の眼と鼻の先――もはや彼女の小さな腕の届きかねない位置に立ち止まると、言い放つ。

「おやめなさい邪教徒」
 村人は聴く耳持たずである。
「聞こえないのですか、邪教徒。変態仮面。モブキャラども」

 村人がまた一人、弧に沿うようにして彼女の前を通り過ぎていく。 

「虚偽、欺瞞、空言をすてよ~!!!」
 腕をぶんぶん振り回してわめくアシュラフ。
 だが、踊る村人たちは一向に反応するそぶりもない。

「……私が先人を切ってついていこう」
 少女の後姿にため息をつき、バリツは呟く。
「冷静になってみれば、壷男に、銃持った女の子、変態所長……俺らって濃い面子だよなあ」
 ぼやくタン。バリツは思った。無事に帰れた暁には、どうしてくれようかこいつ。

 バリツを先頭に、三人の男はアシュラフに続いた。林は自分達と同じ立場ではあるが、留まり、静観することに決めた様子であった。

 不審者を威嚇する番犬めいて唸るアシュラフの傍らに来るようにして、バリツは至近距離から、改めて踊りを観察する。時折ノイズが交じる、大音量のラジカセからの音楽に聞き耳を立てる。
 
 民俗学の知識も多少は嗜んでいるつもりだが、この踊りのリズム、音程には、やはり覚えがない。