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炬善(ごぜん)
炬善(ごぜん)
novelistID. 41661
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CoC:バートンライト奇譚 『盆踊り』前編

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1、謎の盆踊り会場にて



「これは……盆踊り会場か……?」
 呆然とする四人の中、最初に口を切ったのは、バリツであった。

「俺らも踊るしかねえ」
 軽口の斉藤に、
「なんでやねん!」
 突っ込むタン。どうやら彼ら(特に斉藤)は、事態を前に軽口を叩く余裕はあるようだ。
 一方、アシュラフは言葉を失い、目を見開いていた。
「どうした、アシュラフ君」
 バリツはたずねるが、彼女は青ざめた顔のまま答えない。

 年相応に怯えているのでは……?
 殺されかけた相手とはいえ、バリツは一瞬気遣うが、その横顔に殺気立っているものを見出した。
 聞けば小声で、恐ろしいほどの早口で「邪教邪教邪教邪教……」と呟いているではないか。
 バリツは悟る。あーうむ、これ、触れたらアカン奴であるな。

 正面からの盆踊りの音楽は、小気味よく、太鼓の音にあわせて臓腑が震えるのを感じる。どうやら機械から大音量で流れる音楽に合わせて、頂上の人物が大太鼓を打ちつけているらしい。

 いずれも音源は、櫓の頂上であるとみて間違いなかった。
 自分はオーストラリア生まれだが、育ちは完全な日本。盆踊り自体は何度も触れてきた。
 だが、何かがおかしかった。この旋律から覚えるのは、懐かしさではなく、得体の知れない胸騒ぎであったのだ。

「どうやら彼らも愚かなる邪教徒のようですね」
 呟くアシュラフ。
 いや、誰もまだそこまでいってないぞ。
「悔い改めさせなければなりませんね」
「待ちたまえ、アシュラフ君」
 にしても、突っ込まずにはいられない。
「そういえば……」
 冷たい横目でアシュラフはバリツを見やる。
「うやむやになっていたけど、どうしてあなたが私の名前を知っているのかしら?」
「いや君……執務室に入るなり、机や椅子に分かりやすく爆弾が仕掛けられていたら正体の一つや二つ突き止めたくなるものであろう」
「ちっ、やはり仕留めそこなってましたか」
「君ぃ!」

 そう。ここ数日、彼の執務室の机や椅子の下に、何者かの手によって小型爆弾が仕掛けられる現象が多発していたのだ。

 とはいえ大半はオモチャであり、奇異に思いつつも放置していた。
(実害がなければ放置するのは、良くも悪くもバリツらしさである)

 だが、つい先日、本気で殺しにかかっているような類の時限式爆弾があり、血相を変えてアンダースローで庭の池に投げ込んだ経緯がある。
 後に助手のタンに調べさせたところ、不発弾であったのだが、流石にやばいと考え始めたところであった。
(それでもこの時点で警察に頼らず自力で犯人をつきとめようとするのは、良くも悪くもバリツらしさである)

 そしてご丁寧に、「爆弾」のひとつひとつに「アシュラフ・ビント・ヘサーム」の銘入りなのである。 
 まさか犯人が、斯様な少女とは思いもよらなかったが……。
 
「決まっています。バリツ・バートンライト」
 アシュラフは言い放つ。この時、もはや二人とも、目の前の櫓や怪異のことはこの時眼中になかった。
「冒険家教授としてあらゆる遺跡を巡っているあなたは、偶像崇拝の権化も同然。つまり邪教徒。私のターゲットも同然です」

 え、それ別に偶像崇拝じゃ……とか突っ込んでも聞いてくれそうにないぞこの子。
 なんたるむちゃくちゃな理論。そもそも理論が破綻して成り立っていない。
 と、いうかだ。

「いやそうはいってもだな」
 バリツは頭をかきながら語る。
「私は研究材料に困っていたところで、実際ここ最近はそんなに遺跡探索とか今はできているわけではないのだがね……」
 一瞬固まるアシュラフ。
「そんなはずはありません。言い訳は無用です。それでも経験があるのは確かでしょう」
 言い訳無用かーだよなー。
「そもそも他に対象はいそうなものなのに、何を根拠に冒険家教授の私を邪教徒扱いするというのかね」
「いや、きっとそうだなあって」
 いきなり軽いなこの子は。
 バリツは頭を抱える。
「いやきっとそうだなあ、のノリで爆弾仕掛けられる身にもなってくれ……」

「まあ争うのやめえや」
 大柄なタンが、小柄なアシュラフをひょいと持ち上げる。
 
こやつ死にたいのか。
 バリツは肝を冷やしたが、アシュラフは意外なほど無抵抗であった。仏頂面の少女は、さながら大柄な泥棒猫のようであった。
(この時、だらんと垂れ下がった両袖の中に銃口のきらめきが垣間見えたが、バリツは見なかったことにした)

「ところで、アシュラフ君」バリツは助手に持ち上げられた爆弾魔を見遣る。
「察するに、君もどうやら、これらの怪異には一切心当たりはない……ということでいいのかね?」
「何を言います。この私が怪異の張本人であるような物言いは控えてください妄想狂の変態」
「なんて物言いだ」
「逆に私から問いたい。あなたたちこそが元凶ではないのですか、邪教徒」
「ええ……」
 辟易するが、アシュラフはため息をつく。
「ともあれ、不本意ではありますが、今は現状が優先です。けど覚悟はしておくことですね、邪教徒」
「結局私の命は狙うのネ……」
 肩をすくめざるを得なかった。

 とはいえ……。
 バリツは、このアシュラフという少女について考えた。
 どうやら、いきなり人を邪教徒呼ばわりする。爆弾や重火器を取り扱う。そんなとんでも存在な彼女自身も、この現象は心当たりがないようだ。
 それに、依然として殺気立ってはいるが、今すぐ自分達を始末しようという気ではないのだろう。会話も(罵られてばっかりな気もするが)なんだかんだ当初から成立している。

 そもそも人様を「邪教」呼ばわりするということは、彼女には信仰する何かがあるということなのだろうか?
 しかし、その詮索は後の話とすることにしよう。
 ……そもそも本人が見逃してくれる様子がない。

 ふと見やると、自分達から少し離れた場所に、二人分の人影が見える。どうやら、広場の中心部で踊っている人たちだけではないらしい。踊りから離れて見物している人たちがいるようであった。

 タンが「ぎゃあ~!」と間の抜けた悲鳴を上げる。アシェラフに両手を抓られた様子で、彼女を地面に下ろしていた。まあ、抵抗しないのが不思議であったが。

「ともあれ」肩をすくめ、バリツは持ちかける。「彼らから話を聞いてみるのもいいかもしれない。まずは――」

「おっと待った」
 バリツを遮ったのは、先ほどから静観していた筋肉質な男であった。頭に壷を被った。
「皆、まずは自己紹介といこうではないかね。お前達はなにやら顔見知りのようだが、俺だけは初対面じゃないか?」

 そういえばそうだ。
 この……頭に壷を被ってる男は、何者なんだろう。
 タンとアシュラフもどうやら自己紹介には異存はないようだ。

「改めて、我が名は斉藤貴志」男が始めに切り出す。
「芸術家にして陶芸家。中卒だ。カレーライス、肉、寿司が好きだ。よろしく」
「ステキなチョイスの食べ物だが、気になるのはそっちじゃないんだ……斉藤君、改めて問うが、その頭の壷は?」