二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」
炬善(ごぜん)
炬善(ごぜん)
novelistID. 41661
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

CoC:バートンライト奇譚 『盆踊り』前編

INDEX|13ページ/15ページ|

次のページ前のページ
 

4、部外者ではないぞ



 アシュラフに続いて、タンと斉藤が近づいてくる。
 二人の耳にも、会話のあらましは伝わった様子だ。

「時間がない?」斉藤は訝る。
「つまりどういうことだ?」

「アレやな、あの儀式が何かの目的で行われてて、しかもその目的には期限付き……てこと?」
「確証のない、仮説に過ぎないが――少なくともあの踊りが習俗の域を脱した何かであることは間違いないであろう」
「しかしバリツ、その目的とは? 何のために?」

「邪悪なる神の光臨ということですね」
 アシュラフの声。
 つい先ほどまでであれば、またかこの子は、と流していたところであるが、今は違った。
「……当たらずも遠からずだろう。斉藤君、どうやら邪教云々の案件も、あながち的外れではなくなってきているようだ」
「物騒な話だ」

「そもそもなんやけどさ」タン。
「この森から歩いて抜ける、というのはダメなん?」
「試してみました」
 林が口を切った。
「でもダメだったんです。林道にそって歩いていたはずなのに、いつの間にか入り口にまで戻ってきてしまって。別の道を探そうとしても結果は同じで」
「なんやて?」
「信じがたい話ではあるが……」
 バリツは唸る。
「森を突っ切って強行し、この村からの脱出を試みるのは私は非推奨だ。仮に林道とは異なる道を見出そうとするならば、遭難するリスクも高く、なにより、何が潜んでいるかわからない」

「かくなる上は爆破する他ないでしょうね」
 アシュラフの提案に、一同の視線が集まる。
「もはや慈悲も弁解の予知もありませんよ」
「ま、待ちたまえアシュラフ君。私もあの踊りの魔力を思い知った所で、同意といきたい気持ちも否めないが……」
「同意に踏み切らないのはあなたが邪教徒である証ですね」
「いや、そうじゃなくてだな!」
 バリツは咳払いを挟む。
「……あの踊りの正体が何なのか、目的は何なのか、知らなければいけないことが多い」

「それは言えているな」
 同意する斉藤。
「いずれにせよ、あの櫓の頂上の村長が肝要な気もするが」
「それにしても、上るはないやろ。上る、は」
「成せば成るのだ」
「あのさぁ……あれ?」

 タンがふと気づく。
 
 自分達の目が覚めたのは、この場所の入り口に位置する地点であった。
 そこから櫓を中央に挟む形で、昔情緒あふれる民家が立ち並ぶ生活圏が見て取れる。
 その入り口に、先ほどまではいなかった一人の女性がいた。

 一同は、タン先頭に、彼女へと歩み寄る。
「こんばんわ~」
 タンが語りかける。
「おばんです」
 中年女性が気さくに答える。
 着古した浴衣の橙色が、広場からの明りでより光彩を際立たせている。

「俺、タンっていいます」
「村の外から来たんですね。アタシは踊好子(よしこ)。村だと野生の盆オドラー、YOSHIKOって呼ばれてます」
 おどけたように答えて見せるが、どこかその表情には影が伺えた。
「何をいっているのかわかりませんが、あなたも邪教を崇拝しているのはわかりました」
「こらそういうのやめんか」
 タンはアシュラフの頭に、軽くチョップする。

「あなたは踊りに加わらないのですか?」
 斉藤が尋ねる。
「踊りに参加したかったけれど、アタシは休んでるんですわ。その……」
 一瞬、言葉に詰まる。
「……ちょっと足を挫いてしまってて」

 だが、バリツは彼女が視線を逸らしたその瞬間に違和感を覚えた。
 アシュラフもどうやら、感づいた様子だった。
 足を見やるが、真っ直ぐに立つその様子からはとても挫いているようには思えない。

「加わらないのはいいことです」
 彼女が答えると、好子の表情により影が増したように思えた。
 何かを知っているかもしれない。
「好子殿。先ほど踊三吉殿とも会話したところなのだが、あなたは彼と家族なのか?」
「いいえ、ここには踊り性しかないんですよ」
 それもまた珍しい話であるが、他にも知るべき情報があった。
 相槌をうち、質問を続ける。
「それから、あの踊りについて、あなたは何か知っていることはないか? 何やらいつもと振り付けが違うとのことなのだが」
 問いながら、表情の観察を継続する。
 今はあえて、踊りに加わったことについては沈黙することにした。

「そうですね。確かにあの踊りは振り付けからして違いますね。音楽はいつものですけど、何だか、海外の踊りも取り入れてみたとか……すごいですよねえ」

 どこか上の空な返事である。
 もしかすると本当に、深いことは何も知らないようにも捉えられた。
 だが、アシュラフは、より切り込む選択を選んだ。
「心当たりは答えたほうが身の為ですよ。あの踊りはまさに邪教のもの。より深い情報を求めます」

 その言葉には、実際のところ、さほどの圧があったわけではなかった。
 だが、少女の踏み込みを受けて、観念したのかもしれない。
 好子は口を切った。
「今回の踊りは村長の決定で行われているんです」

「三吉殿も同じことを話していたな。しかし踊り自体は、この村ではそう珍しくないとのことであるが?」
「そうなんです。そもそもこの村での踊りは、やりたい人が集まって誰かが音楽流して、勝手に始まるようなものだったんだけど――」
 彼女は一度考え込み、続ける。

「一ヶ月くらい前か、村長が改まったみたいに親睦会なんて開いたんです」
「でも、その親睦会がどうしたっていうんや?」
「アタシは仕事が忙しくて出てなかったんだけどね、しがらみだか興味本位だかで、親睦会に参加していた人たちは、皆様子がおかしくなってしまって。畑仕事している時も眼がボケ~ッとしてるし、すれ違うときに挨拶しても知らん顔だし」

 あまりにもきな臭い話であった。
 斉藤が疑問を投げかける。
「それは、今までにはなかったことなのですか?」
「ええ、そりゃ当然」
 そして、ぽつりと付け足す。
「この村は本当に小さな村ですけど、他所から来た人には、踊りを好きになって帰って欲しいんですわ。でも、あんな不気味な踊りじゃあねえ……こんな嫌な話もしてしまって、申し訳ないですわ」

「いいんですよ。心中、お察しします」
 斉藤は紳士的に答える。
 バリツは顎に手を当てる。
(村の名誉を考える気持ちと、今回の異変を受けての違和感で揺れていた、ということか……)

「村長がおかしくなったのには、心当たりはあるん?」
 タンが別の角度からの質問を行う。
「そうですね。昔から気難しいところはあったけれど、それでも酒と踊りは大好きで……」
 好子は一瞬、考え込むと、思い出したように続ける。

「あ、ちょっと待ってね。そういえば、親睦会のちょっと前からかしら。なんだか家に引きこもりがちになって、出てこなくなっちゃってたわ。体でも崩したのかと思ったら、奥さん曰く、何やら珍しい本を手に入れて読み漁ってるとかで」
「珍しい本やて?」
「そんなインドア派がいきなり邪教の祭りを呼びかけるとはおかしな話ですね」
 沈黙していたアシュラフも口を開く。
「いいえ、そもそもは踊りが好きなアウトドア派でしたか。その本とやら、怪しいですね」