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メッセンジャーは捕虜となった

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屋上には先輩がいた。それはそれ安らかな顔で、すやすやと眠っている先輩が。

「先輩、稲風(いなかぜ)せんぱーい」

 名前を呼べば、ピクッと少し反応を見せる。でも、起きてくれる気配はしない。もう一度名前を呼んでみたけど無駄だった。この人に接近すると少しだけ漂うお線香の匂いは、先輩が毎日ご先祖様にお祈りしているんだとか。サボりだなんてご先祖様に代わって許しませんよー。

「いつまで寝てるんですか先輩。もう二時間もサボってますよ」

 よく先生たちに見つからないなと思う。というか、見つかっても誰も先輩を教室に連れ戻すなんてこと出来ないだろう。だって怖いし。

「せ、ん、ぱ、いっ!」

 何度呼んでも起きない先輩にあたしは大きな声を出した。

「……んう……」

 呼ばれるから振り向けば手を伸ばしてる先輩がいた。

「……どうかしました?」
「抱き枕になれ」
「……は、い……?」

 なんか、ものすごいことを言われた気がする!? なんかとんでもないことを命令してきませんでしたか!?

「……先輩って変な人だとは思ってましたけど……やっぱり変なんですね」
「押し倒すぞ」
「ごめんなさい」
「いいから来い」

 そんなことを真剣に言われるもんだから、あたしはちょっと驚いた。本当に抱き枕になるの? 冗談かと思ってた。だけど先輩の目は冗談を言ってるような目ではなかった。あたしはどうしたら良いんだ。

「早くしろ。手が疲れてきた」

 ずっと先輩の手はあたしに伸ばしてきてる。……おろせば良いのに。

「え、その……えっと……」
「三秒以内に来ねえと犯すぞ」
「え、何でですか!?」
「さーん……にーい……、いー……」
「わー! わー! なりますなります! 抱き枕になりますから!」

 あたしは覚悟して先輩の隣に座った。すると先輩は手をあたしの背中に、もうひとつの手を頭にまわしてきて、ぎゅっと抱きしめたほ、本当に抱き枕にしてる……!

「……せん、ぱい……?」

 おそるおそる話しかけてみると、先輩は目を閉じ小さな寝息を立てて寝てた。加速してる。この人永久に寝てそうとか思ってしまった。ていうか……あたしたち今どうなっての……)

 自分と先輩の状態にあたしは今さら恥ずかしくなった。周りから見れば確実に恋人同士だろうこれ! う、わー……

 どきどきどきどき。

 すみませーん、心臓の騒音が止まらないんですが。どうしてくれるんですか、先輩。