チャルメライダー!!
時は2011年。東京都心に突如として魔王軍が出現した。魔法攻撃による圧倒的な火力を背景に、魔王軍は東京都を一晩で完全制圧。埼玉に設置された臨時政府は非常事態宣言を発令し、東京都周辺に自衛隊を展開させた。
都内との連絡は未だに取れず、日本全体が巨大な混乱の渦に飲み込まれつつあった。
この未曾有の緊急事態に国中が固唾を飲んでいた頃。
東京都に程近い、埼玉県の片隅。
そこには小さなラーメン屋が一軒……。
絶望的にガラガラな店内に、電話のベルがけたたましく鳴り響いた。
難しい顔で新聞を読んでいた店主が、むんずと受話器を掴み上げる。
「こちら明星ラーメン。はい。はい。分かりました……出前ですね」
カウンターで暇そうにしていた店員が、それを聞いて急に悲壮そうな表情を浮かべた。
「おやっさん……出前ですか?」
「ああ。東京に俺のラーメンを待ってる客がいるらしい。ちょっと都庁まで行ってくる」
キュッ! と革手袋をはめる。
「変身ッ!」
店主は身体でRの文字を作った。
もちろん、このRは☆★RAMEN★☆のRである!
その瞬間、店主の身体がとんこつスープを思わせる濃厚でコクのある輝きに包まれた!
「感じる、感じるぞ! 俺のラーメンを待ち望む小羊の祈りをッ! うおおおおおお!」
ぺかーっ! その輝き、磨きあげられたどんぶりのごとし! 脂ぎったテーブルのごとし! 光が収まった時、店主の姿は消え去っていた! そこに立っていた一人の英雄的神話的アルティメットシング! そう今この時! 汚くて狭い店内に一人の覆面のヒーローが降り立ったのだ!
「チャルメライダー、推参っ!」
店からバッと飛び出した店主! ちょっと息が苦しかったのかすぐに覆面を剥ぎ取り、手にしていたリコーダーでチャルメラを奏でた(そしらーらそーそらしらそらー♪)!
すると店前の道路が割れ、地下ガレージへの入口が現れたではないか!
「とうっ!」
店主のメタボリックボディが華麗に跳躍! 穴の底へと消えて行く!
真っ暗な地下ガレージ。そこに鎮座されていたのは一台のバイク、出前の代名詞とも言えるスーパーカブだ。
だが出前専用兵器を満載したこのカブはもはやただのスーパーカブではない!
「行くぞ、ハイパーカブよおおおおお!」
鉄馬は高く嘶き、明星ラーメン出前専用地下トンネルを勢いよく駆け出した。その雄姿はまるで疾風のよう――あとにはチャルメラの音色が「しらそら~♪」と尾を引くのみだ。
「おやっさん、ご武運おおおおおおおおお!」
店員は涙ながらにヒーローの勇姿を見送るのだが、今後登場しないし本当にどうでもいいやつなので詳しい描写は省く。
店長が長い地下トンネルを抜けると東京だった。塵埃の空が鈍く光った。
どことも知れぬ路地裏から颯爽と登場した店主は、前方に魔物どもと戦う人間の姿を視認した! 人間の方はまだ少年に見える。その手にはなんかすっげぇ光り輝く長大な剣を握っていた。
『諦めろ勇者よ! 世界は我々のものだ!』
「そうはさせないぞ! うおおおお!」
対する魔物は相当な巨体である! いくら剣を携えていようとも、少年がこれを打ち倒すのは困難に思われた。いや、仮に武装した兵士十数名であっても敵うか……だがしかし! チャルメライダーならひるまない!
「いまだっ、オカモチミサイル発射!」
そしらそー♪ 車体後部のオカモチ、その側面部分が開き、小型ミサイルが二十発ぐらい発射された! どう見たってオカモチの容積に見合わない量だがそれは全部気のせい! 気のせいなら仕方ないし、何の問題もないんだよ!
『ぎゃああああああああああ!』
ミサイルは魔物を木っ端微塵に吹き飛ばした!
少年が感嘆の声を上げた!
「すげぇ! あ、あんたは一体……」
「死ねえええええええ!」
「ぎゃああああああああああ!」
カブは少年をエキゾチックにはね飛ばした! エクストリームなこの☆★DEMAE★☆を前にしては勇者も魔物もないのだ!
進路を塞ぐものは全て敵!
デストロイオール障害物!
カブは全てを焼き払いながら前進する保身無き戦闘車両なのだ! 良い障害物は障害にならない障害物だけだ! みんな死ね! 死んでしまえ! 死んじまええええええええ!
「チャルメライフルウウウウウウ!」
軽快なメロディとともに店主を中心とする周囲一帯が爆裂する!
『ぎゃああああああ!』
「ぐあああああああ!」
「おかあちゃあああああん!」
その度に何か色々なものが大変なことになったが、チャルメライダーは人体に無害な兵器を使用しているので全然大丈夫! 意外かもしれないけど今まで誰一人として死んでないよ! ただし「『全然』の使い方間違ってるし」とか突っ込んだ人は適度に吹き飛んだ。
やがてチャルメライダーは東京都庁の鼻先にまで到達した!
店を出てから既に十六分。麺の硬さが限界を迎える寸前である!
都庁周辺に展開していた魔王親衛隊が、チャルメライダーを補足して俄かにどよめいた。
『頭のおかしいラーメン屋が突っ込んできたとの報告は真であったか! 出合え出合え! やつを近づけるな!』
一斉に雄たけびを上げる異形ども! 乱れ飛ぶ火炎に吹雪、雷撃、岩石! さすがのアンリミテッドデストロイドマシーン・ハイパーカブもこれは防ぎきれない!
店主は迷わず後部のオカモチを取り外し、グリコの看板っぽいポーズで座席から大ジャアアアアアアアンプ!
「突っ込んで自爆しろカブよ! 皆の心の中で生き続けるんだ!」
ハイパーカブは「えええええ!」と思ったが、ただのバイクなので勿論声に出せない! 可哀想。でもしょせん店の備品だからどうでもいいよね!
彼は親衛隊に無人のまま突っ込み、諸共に散華!
さらばハイパーカブ! 暁に死ね!
生存者を期待出来ないレベルの爆発が起こったがヒーロー的に考えて人道的な火薬が使用されたので人間はみんなげんき☆
巻き起こった爆発に乗って店主は空へと舞い上がる! お腹の肉をプルプルさせながら一気に都庁に接近、ハリウッド映画ばりに窓を突き破って突入!
するとそこには都合よく魔王が!
『馬鹿な?! き、貴様は何者なんだ?!』
魔王が叫ぶ!
チャルメライダーは魔王の声を完全に無視して、お子様に打ち込んでも安全な人体に優しい弾丸を装填した極めてリリカルでマジカルな大口径拳銃を即座に抜き放ちった。不可思議なほどに穏やかな未来を感じさせてくれる陽だまりのような「ドガン!」という銃声が響き渡る! 魔王の頭が吹き飛んだ! 倒れ伏せた彼を踏みつけて、さらに胸に二発。駄目押しに蹴り飛ばし、眼球を銃口で突ついて反応が無いことを確認。
魔王は死んだ。
都内との連絡は未だに取れず、日本全体が巨大な混乱の渦に飲み込まれつつあった。
この未曾有の緊急事態に国中が固唾を飲んでいた頃。
東京都に程近い、埼玉県の片隅。
そこには小さなラーメン屋が一軒……。
絶望的にガラガラな店内に、電話のベルがけたたましく鳴り響いた。
難しい顔で新聞を読んでいた店主が、むんずと受話器を掴み上げる。
「こちら明星ラーメン。はい。はい。分かりました……出前ですね」
カウンターで暇そうにしていた店員が、それを聞いて急に悲壮そうな表情を浮かべた。
「おやっさん……出前ですか?」
「ああ。東京に俺のラーメンを待ってる客がいるらしい。ちょっと都庁まで行ってくる」
キュッ! と革手袋をはめる。
「変身ッ!」
店主は身体でRの文字を作った。
もちろん、このRは☆★RAMEN★☆のRである!
その瞬間、店主の身体がとんこつスープを思わせる濃厚でコクのある輝きに包まれた!
「感じる、感じるぞ! 俺のラーメンを待ち望む小羊の祈りをッ! うおおおおおお!」
ぺかーっ! その輝き、磨きあげられたどんぶりのごとし! 脂ぎったテーブルのごとし! 光が収まった時、店主の姿は消え去っていた! そこに立っていた一人の英雄的神話的アルティメットシング! そう今この時! 汚くて狭い店内に一人の覆面のヒーローが降り立ったのだ!
「チャルメライダー、推参っ!」
店からバッと飛び出した店主! ちょっと息が苦しかったのかすぐに覆面を剥ぎ取り、手にしていたリコーダーでチャルメラを奏でた(そしらーらそーそらしらそらー♪)!
すると店前の道路が割れ、地下ガレージへの入口が現れたではないか!
「とうっ!」
店主のメタボリックボディが華麗に跳躍! 穴の底へと消えて行く!
真っ暗な地下ガレージ。そこに鎮座されていたのは一台のバイク、出前の代名詞とも言えるスーパーカブだ。
だが出前専用兵器を満載したこのカブはもはやただのスーパーカブではない!
「行くぞ、ハイパーカブよおおおおお!」
鉄馬は高く嘶き、明星ラーメン出前専用地下トンネルを勢いよく駆け出した。その雄姿はまるで疾風のよう――あとにはチャルメラの音色が「しらそら~♪」と尾を引くのみだ。
「おやっさん、ご武運おおおおおおおおお!」
店員は涙ながらにヒーローの勇姿を見送るのだが、今後登場しないし本当にどうでもいいやつなので詳しい描写は省く。
店長が長い地下トンネルを抜けると東京だった。塵埃の空が鈍く光った。
どことも知れぬ路地裏から颯爽と登場した店主は、前方に魔物どもと戦う人間の姿を視認した! 人間の方はまだ少年に見える。その手にはなんかすっげぇ光り輝く長大な剣を握っていた。
『諦めろ勇者よ! 世界は我々のものだ!』
「そうはさせないぞ! うおおおお!」
対する魔物は相当な巨体である! いくら剣を携えていようとも、少年がこれを打ち倒すのは困難に思われた。いや、仮に武装した兵士十数名であっても敵うか……だがしかし! チャルメライダーならひるまない!
「いまだっ、オカモチミサイル発射!」
そしらそー♪ 車体後部のオカモチ、その側面部分が開き、小型ミサイルが二十発ぐらい発射された! どう見たってオカモチの容積に見合わない量だがそれは全部気のせい! 気のせいなら仕方ないし、何の問題もないんだよ!
『ぎゃああああああああああ!』
ミサイルは魔物を木っ端微塵に吹き飛ばした!
少年が感嘆の声を上げた!
「すげぇ! あ、あんたは一体……」
「死ねえええええええ!」
「ぎゃああああああああああ!」
カブは少年をエキゾチックにはね飛ばした! エクストリームなこの☆★DEMAE★☆を前にしては勇者も魔物もないのだ!
進路を塞ぐものは全て敵!
デストロイオール障害物!
カブは全てを焼き払いながら前進する保身無き戦闘車両なのだ! 良い障害物は障害にならない障害物だけだ! みんな死ね! 死んでしまえ! 死んじまええええええええ!
「チャルメライフルウウウウウウ!」
軽快なメロディとともに店主を中心とする周囲一帯が爆裂する!
『ぎゃああああああ!』
「ぐあああああああ!」
「おかあちゃあああああん!」
その度に何か色々なものが大変なことになったが、チャルメライダーは人体に無害な兵器を使用しているので全然大丈夫! 意外かもしれないけど今まで誰一人として死んでないよ! ただし「『全然』の使い方間違ってるし」とか突っ込んだ人は適度に吹き飛んだ。
やがてチャルメライダーは東京都庁の鼻先にまで到達した!
店を出てから既に十六分。麺の硬さが限界を迎える寸前である!
都庁周辺に展開していた魔王親衛隊が、チャルメライダーを補足して俄かにどよめいた。
『頭のおかしいラーメン屋が突っ込んできたとの報告は真であったか! 出合え出合え! やつを近づけるな!』
一斉に雄たけびを上げる異形ども! 乱れ飛ぶ火炎に吹雪、雷撃、岩石! さすがのアンリミテッドデストロイドマシーン・ハイパーカブもこれは防ぎきれない!
店主は迷わず後部のオカモチを取り外し、グリコの看板っぽいポーズで座席から大ジャアアアアアアアンプ!
「突っ込んで自爆しろカブよ! 皆の心の中で生き続けるんだ!」
ハイパーカブは「えええええ!」と思ったが、ただのバイクなので勿論声に出せない! 可哀想。でもしょせん店の備品だからどうでもいいよね!
彼は親衛隊に無人のまま突っ込み、諸共に散華!
さらばハイパーカブ! 暁に死ね!
生存者を期待出来ないレベルの爆発が起こったがヒーロー的に考えて人道的な火薬が使用されたので人間はみんなげんき☆
巻き起こった爆発に乗って店主は空へと舞い上がる! お腹の肉をプルプルさせながら一気に都庁に接近、ハリウッド映画ばりに窓を突き破って突入!
するとそこには都合よく魔王が!
『馬鹿な?! き、貴様は何者なんだ?!』
魔王が叫ぶ!
チャルメライダーは魔王の声を完全に無視して、お子様に打ち込んでも安全な人体に優しい弾丸を装填した極めてリリカルでマジカルな大口径拳銃を即座に抜き放ちった。不可思議なほどに穏やかな未来を感じさせてくれる陽だまりのような「ドガン!」という銃声が響き渡る! 魔王の頭が吹き飛んだ! 倒れ伏せた彼を踏みつけて、さらに胸に二発。駄目押しに蹴り飛ばし、眼球を銃口で突ついて反応が無いことを確認。
魔王は死んだ。
作品名:チャルメライダー!! 作家名:ナナシノ