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沈黙のAI

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18世紀の終わりから19世紀初頭にかけ、人類の歩みはまさにプレートを揺るがすかの如く、アグレシップな産業革命を勃興させた。その後21世紀に入るや否や、再び叡智を結集しての高度なテクノロジー文明を現出させていた。
今まさに成熟期を迎えつつある21世紀も半ば、人類は、様々な行動様式や方向性、または近未来へのビジョンなどを、これまでにない超テクノロジーと、人類の叡智を昇華させ作り上げた人工知能に、すべてを委ねていたのである。
なかでも人々の心に、いにしえの頃より宿世していた宗教などは大いに激変し、魂の拠り所はすべてAIに置き換ると言った、まさに神に近い存在として崇拝されていたのであった。以前は様々な国や地域に深く根差した過激な原理宗教から、近代国家の礎であった人々を道徳的に導く一神教、または神代の頃からの自然崇拝に根ざした神道などが、その崇高な精神性を保ちながらも、やがて人々は羽化登仙の心緒で、共生から解き放たれ、故に絶大な権威を誇っていた宗教のカリスマ性は形骸化されていった。
そして、国や地域の統治システムは、絶対的な権威と敬拝の対象にあったAIに取って代わられていたのである。
その発端となったのは、大規模な災害等による危機管理能力や互いの国益のみに重きを置く経済政策、そして国境をまたいでの深刻な環境破壊や、長年の取り組みにも関わらず、加盟各国の腰の引けた二酸化炭素排出規制による急激な地球温暖化、そしてその弊害は壊滅的なほどの農業生産停滞をもたらし、さらには特定地域に偏った人口爆発現象とあらゆる諸問題に対して、対応は後手に回る有様で、まさに前門の虎、後門の狼となり果て、もはや人類の英知だけでは遥かに遠く及ばなくなっていた現実があったのである。新たな官庁を新設しても対応は行き詰まり、速やかに政策を推し進めるべき立法議会も、民主主義の弊害ともいうべき、少数派に対する性善説に基づいた譲歩を重ね、議論は無意味に平行線を辿る有様であった。
高度にデジタル化された社会において、未だにこの様な旧弊なアプローチに、国民の怒りは頂点を通り越して辟易し、政策決定をAIに任せるべきだとの世論が各方面に沸き起こったのである。この各界からの民意をむげに無視する訳にもいかず、リベラルを標榜する政権与党としては、AI省を作りトップに最高の人工知能を据え、管理統括部長にAI技術の世界的権威でもあった岡 きよし博士を任命したのであった。
司法 立法 行政をも兼ね備えるこの省は、まさに日本の中枢と言わしめ、政治、経済の要でもあり、是により次々と下される政策事項は各部門省庁に瞬時に発信され、外交 貿易 軍事 内政などの重要戦略に生かされていた。
・・・今まさに、総理官邸地下戦略会議室において、各部門の長を招集しての熱気をおびたパネルディスカッションが行われていたのである。
金融財政担当「重要且つ、継続的監視下の対象でもあった、高齢化社会問題もほぼ盛時を過ぎ、財政を圧迫していた社会保障費負担も緩やかに減少いたしております。また株式市場や、為替債券相場および商品市場につきましては、各国のAIネットワークによる連携やブリーフィングが功を奏し、以前からの懸念材料となっていた、一部政府系または巨大ヘッジファンドによる投機的な市場介入や経済失政による暴落は、ほぼ皆無となり、高収益のみを追うキャピタルゲインから健全なインカムゲインへと向かいつつあり、配当などによる安定収益源として着実に成長を続けています」
総理「それじゃあ、トレーダー達も手持ち無沙汰と言う所か」金融財政担当「彼らは、金融をマネーゲームと称し、他人の精魂込めた土壌を荒らして、実りを一方的に強奪しようとする怪しからん奴らです」
総理「人と言うものは、欲望には節操のない生き物だから、常に先読みの一手を打っておかないと、どこまでも暴走してしまう。それをAIの力によって管理されているとはいえ、現代社会における最良の方策なのかも知れないのだろうな」総理「次は」経済産業担当「は、・・・交通移動手段としての車は今もなお、重要な位置を占めておりますが、成熟した自動運転テクノロジーにより、ここ数年来の対人、対物、自損事故等の発生件数はほぼ皆無に等しく、しかしそれが故、かつて高収益ランキングの上位を占めていた大手自動車損保業界では、今まさに極端な加入者数減少に見舞われ、業界は存続の危機に立たされて、もはや破綻しかねないといった噂が立つほどの惨状です。これを何とか打開できないものかと、陳情を受けている次第ですが」
総理「国が、一民間企業にパトロネージすると言うのも、世論は納得しまい」経済産業担当「しかしながら、新たな収益源を確保する間のつなぎ資金として、特別融資枠を設けての財政出動も致し方ないのではないでしょうか」
総理「・・・ではその件は君に一任するとして、他には何か」地方創生担当「以前からのテーマとして取り組んでいた人口減少問題の件については、依然として出生率が上向きに転じない要因の一つとして、若い世代の結婚願望が有りながらも、将来像を見通せずに、ためらってしまう傾向にあると言う事が考えられます。また無事結婚に至っても、相性の良し悪し、または、将来克服できそうな些細な事象でもそれを過剰に悲観しその為か、それがかなりの離婚要因になっているもようで有ります。
この未婚率と離婚率を低下させ、出生率を上げるための一つの方策として、AI省に助力をお願いしては如何なものかと存じますが」
総理「うーん、発議の意図がよく分からないな、いったい君は、なにをどうやろうと言うのかね」地方創生担当「詳しくご説明いたしますと、AIのもつ膨大な個人情報や、データ解析能力をいかして、その・・・アダムとイブのような完璧な調和のとれたカップル群を誕生させてみてはいかがかと」総理「・・・アダムとイブが完璧かどうかはさて置いて、つまり人工知能に縁結びをさせようと言う事なのかね」地方創生担当「はい、常識外の一手ではありますが、これもいわゆる時代の潮流ではないのかと存じまして」
総理「これは、岡 博士の見解を伺いたいが、いかがなものか」岡 博士「今の所、経済運営や、対外貿易振興、内政諸問題につきましては、想定以上の効果を上げつつ有りますが、地方創生担当が仰せの、人々の情緒面にまでAIが入り込む事自体は、現段階では時期尚早であり、また想定外のリスクを伴うのではないのかと存じます」地方創生担当「男女の出会いとは、現状では狭い範疇での交流が、大多数を占めているのではないのかね、それならばいっそ、日本国中をふるいにかけ、選択肢を広げて膨大な個人情報を網羅し、たとえば、DNAによる相性判定や、好悪の感情、趣味嗜好、個人のアビリティや偏差値、誕生月や星座月、十二支、血液型、メンタル面、身体的特徴などあらゆるデータを統合的かつ有機的に運用して、最良のカップルを誕生させるシステムを開発してはどうかと思うのだが」
作品名:沈黙のAI 作家名:森 明彦