26話 あとは野となれ山となれ -天敵ー
私は友人A子に人知れず一目置いている。
それは遠い昔…彼女を尊敬してしまうある出来事があった。
ある会があってA子に誘われてそのパーティーに出かけた。
A子の知ってる人達が居たので、私も一緒に立ち話をしていたら、
以前から二人の間に何かあったのか一人が酷く感情的な言葉でA子を非難し始めた…それは人格を否定するような嫌な言葉で、A子は突然の言いがかりに吃驚した様子で目を見開いたまま無言だった。
とにかく言われっぱなしで、横にいた私はその人の言いようがあまりにも酷いので吃驚してしまい凍り付いてしまった。
そしてA子はやっと「行こう!…」と私の手を引くとその場から離れて化粧室に行った。
A子は髪の毛をぱっぱと払って、憤懣やるかたない様子だったけど
「ごめんねやな思いさせてしまって…」と私に謝った。
「友達なの?…」と聞くと「う~ん…そうね…」と首をかしげた。
それからも暫く、あんな言われ方したら私だったらどんなに傷つくだろ
まして、みんなの前で、連れ立った私の前で罵倒されたようなもので屈辱的な、プライドが深く傷ついただろうとA子を思って、私も傷ついて…何日も眠れなかった。
それから少ししてからまたその人達と偶然会った。
私はA子を庇おうと思って「あっちに行こう…」と手を引っ張ったが、
A子はその手を払ってその人の前まで歩いて行って「どうも!」って何事も無かったように挨拶をした。
かえって相手の方が怯んだ様子だったが何事も無いように話をし出したので私も所在無げに隣に立っていた。
平和に話しているようでお互いにちょいちょい攻撃が挟まって冷静に見てると勢いA子の方が勝っていて、今回はA子の勝ちみたいな感じで「じゃあね…又ね」とA子は踵を介して私にしてやったりみたいにニマって笑って見せた。
その後も二人は知り合いの立場を崩さず会えば一見平和に話していた。
私は二人が話していると、まさに”ハブとマングースの戦い”を見るようで、二人とも逃げたら負けのように友人関係を崩さなかった。
最近、海辺の町に遊びにやって来たA子に
「××さん、元気?…ほら、あの…天敵の…」と聞くと、
「全然、今は知らない…強い女だったわね…あいつ…」と強い女は笑った。
懐かしげに海を眺めていたので…意外とハブとマングースは認め合う所があったのかも知れないと思った。
あの時、「あっちに行こう…」なんて逃げようとした私は情けない…。
心傷ついていたのは私だけで、彼女達は攻撃を受けたら怯むことなく次の反撃を考えているんだ…。
私は生まれ変わったら、気性の強い活動的な女に生まれ変わりたいと思ってる…。
具体的に言うと、
築地(豊洲)市場で働くような、気風が良くて働き者、それでいて美人でチャキチャキの江戸っ子みたいな…小股の切れ上がった好い女みたいな…男前の女に生まれ変わりたいと思ってる。
まあ、ハブとマングースとは言わないが…攻撃的な猫の爪ぐらいは持ちたいものである。
作品名:26話 あとは野となれ山となれ -天敵ー 作家名:のしろ雅子