「美那子」 旅行 二話
秀一郎は母親が綺麗になったというより色気が出て来ていると感じていた。
父親と仲良くしていると言う感じには見えなかったから、どうしたんだろうかと美那子に指摘されなくても思うところはあった。
誰か好きな人でも出来たのならそれは不倫相手という事になる。
母親が不倫?信じたくは無かった。
「母さん!ちょっと話があるんだけどいいかな?」
台所にいる美樹にそう話しかけた。
「あら、何の話なのかしら?ここでいい?それともあなたのお部屋に行く?」
「ここでいいよ」
「じゃあ、座らないとね。何か飲む?」
「いいよ、自分でするから」
「解った。珍しいね、話があるだなんて、どうしたの?」
「うん、実は美那子と来月の夏休みに旅行に行きたんだよ。いいかなあ?」
「ええ~二人で旅行に行くって言うの?同じ部屋に泊まるっていう事よね」
「ああ、そうだよ。別々に泊まると言う方が変だろう、兄妹なんだから」
「お父さんに聞いてみる。明日返事するね」
「ダメなら・・・考えたんだけど母さんも一緒に来ない?」
「私が?それは美那子が嫌がらない?」
「どうして嫌がるんだよ。家族で行くんだよ」
「そうね、そうよね。ならお父さんに聞かなくても大丈夫。三人で行きましょう」
「一つ頼みがあるんだ」
「なに?」
「旅行を許す条件として母さんも連れて行って、と言ったという事にしてくれない?」
「美那子に気を遣うのね。いいわ、お母さんあなたたちと旅行に行けることが嬉しい」
美樹は秀一郎と美那子は普通の兄妹の関係じゃないと感じた。
いけないことであっても今はそれを注意するべきでないと、いや注意するような資格はないと恥じた。
美那子も納得して三人は旅行の準備を始めた。せっかくだから東北と北海道一緒に回ろうと三泊四日の日程で旅行社へ相談に出掛けた。
仙台空港から青葉城、平泉、十和田湖そして千歳空港から札幌、小樽、函館から名古屋へ戻ってくる。少々詰め込んだ計画だったが、それぞれに行きたい場所を一か所は選択した結果でもあった。
アルバイト最終日を迎えて美那子は千佳に挨拶をして、別れを告げた。
駐車場で月に一度の見回りに来たフランチャイズの親会社の責任者、千佳の夫である芳之とバッタリと出会った。
芳之は一目でそれが美樹の娘であることに気付いた。
千佳が呼び止めるようにして夫を紹介する。
作品名:「美那子」 旅行 二話 作家名:てっしゅう