好奇心の小窓
私は今、三十歳。今日は小学一年になる一人娘をつれて、あの教会があったところにやって来た。そこは、朽ち果てた木材が散乱していて、あの時のまま片付けられていなかった。
「ママ、ここにお家が建ってたの?」
「ええ、そうよ。ママのお友だちのお家があったのよ」
娘が小学一年になった時、ふと、私はあの子とあの小窓のことを思い出した。そして、なぜか娘を連れて行ってみようと思った。娘の姿が、あの頃の私たちを思い起こさせたのかもしれない。
懐かしいその場に立った私は、心の中で、あの子に語りかけた。
(本当のお友だちになれなくてごめんなさい。
初めは、あなたが寂しそうだったので声をかけたけれど、その後はあの小窓に行きたかったの。
きっと、あなたはそれに気づいていて、何も言わなかったのよね。
いつか、謝らなければと思っていたのよ。
大人になって、今ではあの頃のように知りたくてたまらないことはなくなったわ。むしろ、知りたくないことばかりのような気がする。
いつか、また逢えたら、今度は本当のお友だちになってね)
「ママ、あれ!」
娘の指さす先を見ても、何もない。
「な~に?」
「ママには見えないの? 私くらいの女の子が、こっちに手を振っているじゃない」
娘は、あの小窓があった方向を見つめてそう言った。私は驚きながらも娘に聞いた。
「その子、どんな顔をしている? 楽しそう? それとも悲しそう?」
「あの子、うれしそうに思いっきり手を振っているよ」
私は溢れそうになる涙をこらえながら、その方向に向かって、千切れるばかりに手を振り続けた。
完