こう門まで五分
秋の真っ青に広がる空と穏やかな陽の光が 俺のまなこに飛び込む。
溜息が出る。
そうだ、昼食も胸につかえてあまり食べられなかった。
特に調子が悪いとは思えないが きっとアイツの所為だ。
「あっ」
俺は、またも もよおしてきた。
まずい。そう思った時には 身体は既に立ち上がり、ドアを出て廊下を走る。
いや 走ってはいけない。
こういうときこそ落ち着け。
たぶん、いや、きっと間に合う。間に合わなければ…
気持ちの焦り。
手を握りしめ、額にうっすら脂汗も吹きだしてくる。
俺は、我慢しつつも下り始めたことに足を速めた。
俺は、この九十九折りともいえる はなはだしく曲がりくねっている中を駆け巡るのを感じていた。
あと少しだ。
この先を・・・ あ、ドアが閉まっている?
もしも、誰かにさき越されては どうにかなってしまいそうだ。
「あれっ」
少し治まってきただろうか。
いや、治まるものか! やっとその時が来ようとしているのに緩めてはいけない。
しかし、間に合わず出てしまっては このなりふり構わず突っ走った純情。
もう恥ずかしさに身動きができなくなりそうだ。
もう、こう門は近いはず。
横っ腹まで痛くなってきた。
間に合ってくれ。
俺の願いは、もう、もう、もう 目の前に・・・
「ふじょう はなこさぁん!」
俺は、こう門でぶちまけた。
ずっと憧れのキミに告白した。
俺の差しだした右手に 彼女はにっこり笑って答えてくれた。
「はい」
そして、握らされたポケットティッシュ。
「ハンカチじゃないけど使って」
嬉し涙と鼻水と
そして・・・
校門まで走った五分の汗を拭いてすっきりしたのだった。
―了―