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『真夏日・カナのスクーター・廃工場の灰羽達』 【灰羽連盟】

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(七)



 ややサイズの大きいつなぎに着替えたカナが廃工場の中庭まで戻ると、アキはすでに整備服に着替えて待っていた。
「遅れてごめん」
「あらためて、アキだ。よろしく」
 気にすんな、とばかりにアキは右手を差し出してきた。アキの右手を取ってカナ達は握手を交わす。ゴツゴツとした大きな手だな、とカナは感じた。
「んじゃ、ガレージ行こう。こっち」
 アキはスクーターを押しながら中庭から工場の裏手へと向かう。カナはスクーターを挟んで隣を歩く。太い鉄骨がむき出しになっている廃工場の様子に、カナは興味津々となる。
「珍しいか? ああ、こっちに来るのはじめてだっけ?」
 アキが訊いてきた。
「あたしは入り口のとこまでしか来たことないから、中がこうなってるなんて知らなかった。へえ……すごく楽しそうだね」
「お、分かる? 楽しいぜえ?」
 アキはカナを見てにんまりと笑った。
「ぱっと見、薄暗くて不気味なオンボロ工場だろ? だけど、実際住んでみるとなかなかのもんだ。そうそう、夏なんか気が向いたら、ハンモック吊って寝てたりもするんだぜ。そのほうが涼しいしオススメ」
 女子の部屋のほうはというと、工場だということを感じさせないように徹底していた。壁は白塗り、床は絨毯張り。もちろん油の匂いなんてまったくしない。さっきカナはミドリの部屋を見せてもらった。オールドホームの自分の部屋より洗練されたデザイン。ミドリのセンスをちょっとうらやましく思った。

「にしてもこいつ、バッテリー付いてなかったのか。びっくりしたよ」
 カナはスクーターのシートをポンポンと叩く。
「バッテリーレスってヤツだ。構造がシンプルな分、壊れても直しやすい」
「どうメンテナンスすればいいのかとか、教えてもらえると嬉しいんだけど」
「そうそう、自分でやるんだったよな。機械いじり、好きなの?」
「あたし? 大好きだよ。今は時計台で働いてる」
「ええと……ああ、あの怖そうな親父のところな。あそこも職人の仕事場って感じだな」
「親方が見たまんまの頑固親父でさ。参っちゃうんだよねえ」
 すっかり打ち解けた様子で、カナとアキは歩いて行く。

「こっちだ」
 工場の端まで来るとアキは右折した。右折してすぐのところにガレージがあるのだが——
「おいおい、なんでお前らがいんのよ?」
 ガレージ入り口に少年が二人、突っ立っているのを見てアキが呼びかけた。
「おじゃま? 俺達も手伝うぜ」
 彼らはさきほどヒョウコにおどけて見せていた少年達の中にいた。カナからするとちょっと不良じみた格好をして見えるが、中身は気のいい少年なのだろう。
「手伝う? 感心だな。そんな言葉、お前から聞けるとは思わなかったぜ」
 アキは軽くあしらった。
「まあ言うなって。扇風機運んできたんだ、ほら」
「うわ、でかっ!」
 カナがびっくりするのも無理はない。少年が台車に載っけているのはフロア扇。ただ大きさが並みではない。羽根の直径が一メートル近くもあるのだ。
「なにこれ」
 カナは目を輝かせた。見たことのない機械を目の前にして、またしても興味津々である。
「気になる? 工場の使わなくなったでっかい換気扇を改造して作ったんだ」
 少年のひとりが言った。
「これで作業が楽になるだろ? 今日なんてガレージの中で作業してたら、ぜったい暑いじゃん」
「あーあー、分かった分かった」
 アキはぞんざいに返答した。
「分かったから、シャッター開けるの手伝えよ。ほら、そっち行った」
「うい」
 少年達がシャッターをガラガラと開ける。中からはオイルの匂いがする。アキはガレージの電源を投入し、明かりを灯した。
 ガレージの中には整備中と思われる大きなバイクが一台止まっていた。横の棚には工具や部品、オイル類が整然と並べられている。
「修理に関しちゃ街のガレージからも一目置かれてるんだぜ?」
「それに改造だってな!」
 扇風機を運んできた少年達はカナに得意げに言った。そして扇風機のケーブルを延ばしてコンセントに接続する。スイッチを入れると巨大な羽根がゆっくりと回り出した。
「あれはオーバーホール中のバイク。街の人から頼まれて調整してる。最終調整が少し残ってるけど、ほぼ完成してんだ」
 アキはスクーターを固定させて軍手をはめる。
「んじゃ、はじめるとするか」
 アキは作業開始を告げた。

◆ ◆ ◆

「いやしかし、これはアレだな。ずいぶんと乱暴に扱われたもんだな」 
 外装パーツを取り外したアキが言った。
「いや、なんというか、……ごめん」
 カナは申し訳なさそうに頭を下げた。外見からは問題無さそうに見えたスクーター。だが外装の裏側や内装パーツはかなり痛んでいるのが、素人目にも分かってしまう。
「いや、これやったのレキでしょ。ここ、何回も打ち付けてべっこり凹んでる。もう少し後だったら手遅れだったかもしれないな。今回は不幸中の幸いというか、ちょうどいい時に整備できてよかったかもな」
 アキはダメージのある箇所を的確に指摘する。
「こっちの配線もかなり痛んでる。あとここ錆びてる。雨のあとでちゃんと拭いとかねえと、いつかはこうなる。気をつけてほしいとこだけど、でもレキだからなあ。面倒がってやらなかっただろうなあ」
「レキなら仕方ないな」
 男連中が皆同意する。カナもレキを擁護できない。スクーターに鞭打って無理矢理走らせるレキ。スクーターから飛び降りて一目散にラッカを迎えるレキ。その他もろもろのことを思い出す。よくもまあ彼女は、ずいぶんと機械に優しくない扱い方をしてきたものだ。でもそれはレキに限ったことではない。
「あたしもこき使ってきた。反省する。機械が好きだなんて言ってるくせに、スピードが乗ってくるとつい……」
 カナは神妙な面持ちで肩を落とした。
「いたわるのも大事だけど、こいつは走るために生まれてきたんだからさ、存分に走っていいと思うぜ、俺は」
 そんなカナをアキは励ました。
「とりあえず今日はケーブル一式交換して、そしたら直るだろう。けどなあ、弄ってるうちにオーバーホールしたくなってきたな。マジでウズウズするわ」
 そう言ってアキは笑った。カナも、アキの指示を受けてパーツを外したり潤滑剤を吹いたりする。
(やっぱあたし、機械いじり好きなんだなあ)
 工具箱の中、ずらっと揃ったレンチ一式などを眺めつつ、あらためてカナは思った。

 わいわいと、灰羽の少年達の修理熱はさらにヒートアップしていく。
「ついでにこれ付けない? パワー上がるぜ?」
「いや、ここはノーマルのままのほうがいいんじゃね? つけたらカブりそうだ。それよりこっち——」
「お前ら待てっての。それやりはじめたら朝までぶっ通しの作業になるっての」
 アキは、二人の少年の暴走を制する。が、アキとて必死に抑えているのが見てとれる。
「カナ。今回はとりあえず修理だけだ。けどさ、都合がつく時でいい。オーバーホールさせてくれよ。……あ。お代は要らねえ。灰羽同士、これからも助け合おうぜってことと、俺達の勉強代と差し引きゼロってとこで、どう?」
 お願いします、とばかりにアキは手を合わせた。
「んー……」