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『真夏日・カナのスクーター・廃工場の灰羽達』 【灰羽連盟】

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(三)



 朝食を終えると、オールドホームの灰羽達はそれぞれの日課に取りかかる。パン屋が休みのヒカリと、仕事が昼からのラッカは、寮母さんと連れだって年少組のいる棟へ。一方で、カナと双子はグリの街へと向かうのだ。

 カナはスクーターで仕事に通うことが多くなった。そう。長いことレキが愛用していたスクーターだ。レキの巣立ちのあとしばらくして、なんとなくカナが使うようになっている。街の許可がおりて堂々と走れるようになるとカナは「やーりぃ!」と大はしゃぎしたものだ。今日もカナはスクーターを走らせる。まずはまたがり、キックしてセルを回す。
「ん?」
 エンジンがかからない。昨日は運転していて特に問題なかったのに。ガソリン残量だって余裕がある。
「んんー……?」
 カナは頭をかしげながらスクーターから降りた。しゃがみ込んで後輪のあたりを覗いてみるが、よく分からない。機械いじりが好きなカナだが、バイクについての知識はあまりない。
「なんでレキは整備手帳とか持ってないかなあー? こういうとき困るってのに」
 仕方なくカナなりにメンテナンスをしていたものの、故障してしまったらカナの手には負えないのだ。
 カナは、ものは試しとばかりに、押し掛けをしてみる。力を込めてスクーターを押す。ゆっくりと。徐々に速く。だんだん汗がにじんでくる。
(この! かかれ!)
 しばらくの奮闘ののち、ぶるんとエンジンが回った。
「よっし!」
 カナはスクーターに乗るとアクセルを二度、三度拭かした。問題ない。スクーターの機嫌は直ったようだ。

◆ ◆ ◆

 カナはオールドホームの入り口に向かう。すると、ちょうどラッカが戻ってくるところだった。
「ラッカー?」
「カナ」
 ラッカは小さく手を振って応える。カナはラッカの手前でスクーターを停めた。
「行ってくるよ」
「うん」
 ラッカはうなずく。
「ねえカナ。さっきヒカリと話したんだけど、近いうちにみんなで古着屋さんに行かない? 夏向きの服が欲しいなって思って。年少の子たちの分も見繕ってあげたいし。どうかな」
「ああ、いいねえ。あたしもほしかったところなんだ」
「いつがいい?」
「そうだなあ。あたしなら明日が休みで、それから……」
 カナは指を折って数える。
「まるっと休みとなると、あとは一週間後かな。ああでもこんなに暑いんだ。なるだけ早いほうがいいよな?」
「丸一日じゃなくっても、服をみるだけだから、そんなにかかんないよ。夕方の――五時から三十分くらい、かな」
「そんなもんか。そんじゃあいつでもいい。ラッカが決めていいよ」
「じゃあ、明後日でどう?」
「オッケー。……マヒル達には話したの?」
「うん。今見送ったところ。『服を見に行くよ』って言ったらすごく喜んでた」
 ラッカは微笑む。
「んじゃ決まりだな……って、あいつらもう行っちゃったの?!」
 カナはびっくりした様子で目を見開いた。対するラッカも何ごとかと目をぱちくりさせる。
「うん。そうだけど――」
「ちぇ、一緒に行こうと思ったのになあ。じゃあね、ラッカ」
「あ、行ってらっしゃい。気をつけてね」

 カナはスクーターを発進させ、右腕を上げて応える。入り口まで行くと“河魚”と書かれた自分の札を裏返す。そうして橋を渡ると道路へと出て行った。