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『真夏日・カナのスクーター・廃工場の灰羽達』 【灰羽連盟】

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(八)



 ガレージから戻ったカナは、手と顔を洗って部屋着に着替えた。それから灰羽の少女達に連れられて食事の場所へと向かう。
「カナ、かっこいい……」
 男装の麗人に魅せられた、ひとりの少女がぽつりと呟く。
(この時用意されていたカナの服がじつは男物だったとは、カナは翌日まで気付かなかった)

 廊下の向こうからカレーの香辛料だろうか、何ともいえぬいい香りが漂ってくる。両開きの扉を開けると、そこは建物の上まで吹き通しとなっている広間。長テーブルが設置されており、すでに灰羽達が集まっていた。奥には、グリの街でちょっとした店が開けそうな規模の厨房があった。中では灰羽の男子一人と女子一人が厨房用の白衣を身につけているのが見える。
「へえ。まるで食堂だ」
 見事なもんだ、とカナは感想を口にした。
「そう。ここ、もともと工場の食堂だったの。ずっと昔のことだけどね。それをあたし達が利用させてもらってるってわけ。ほら、こっち座って」
 カナは長テーブルの端っこへと案内された。
「なんだ? お誕生席?」
「そう。ようこそいらっしゃいました」
 ミドリは芝居めいて客人に一礼する。
「なに猫被ってんだよ」
 隣の長テーブルから、廃工場に戻ってきていたヒョウコが茶々を飛ばす。
 ふと、アキと視線が合った。彼ははにかみながらくすりと笑い、手を振った。
「カナ、こっち」
 先ほど作業していた少年が、おいでおいでと手招きする。
「ちょっと! カナの席はここなの!」
 そうだそうだと、女子から抗議の声が上がった。
「俺らだってカナと話したいもん」
「なによう。カナはあたし達とお話しするんだから!」
「いやいや、お前らは部屋に戻ったらいくらでも話できるじゃんか」
 やいのやいの、男女間での口げんかが勃発する。板挟みになったカナはちらりとミドリを、アキを、そしてヒョウコを見た。ヒョウコは立ち上がり、パンパンと手を叩いた。

「カナはここだ! 真ん中の席!」
 ヒョウコが大声を出すとみんなぴたりと動きが止まった。
「んで、男はこっち側、女はそっち側に座ってぐるっと囲めばいい。……お客さんにみっともないモノ見せんな」
 ぐうの音も出ない。言い争っていた灰羽達は一様に申し訳なさそうな表情でカナを見た。
「ごめんカナ。こんなことばっかしてるんじゃないのよ、あたし達」
「悪い。たしかにこいつはみっともなかった」
 カナが長テーブルの真ん中に座ると、左側に男子、右側に女子が席に着いた。
「アキはここな!」
「……あのなあ」
「いいからいいから」
 と、カナの真正面にアキの席が用意された。主に女子からどよめく声があがる。
「……え、なんかあったわけ?」
 ミドリがまた訊いてくる。
「「いやいやいやいや」」
 カナとアキは揃ってかぶりを振る。それからちらりとお互いを見る。どうにも、お互い意識してしまっている。
「ふうん?」
 幸い、ミドリ達もそれ以上突っ込んだ問いかけはしてこなかった。
「みんな揃ったかー?」
 厨房にいる少年が声をかける。夕食の時間だ。オールドホームとはまた勝手が違うが、これはこれで賑やかで楽しそうだ。

◆ ◆ ◆

「おお! これうまい!」
 いただきますの挨拶のあと、カナはカレーをほおばった。その味わいは絶妙。ジャガイモやタマネギが溶け込んだ、とろりとしたルーはスパイシーで、それでいてまろやかな甘さも含んだ豊かな味わい。なんといっても白飯とよく合う!
 カナの言葉を聞いて、厨房にいた灰羽達がグッジョブ! とばかりに親指を立ててお互いを賛辞する。
「えっ。これ作ったんだよね? ここで」
「廃工場名物、カレーライス。気に入った?」
 厨房にいた少年が訊いてくるので、カナはこくこくと頷いた。
「嬉しいねえ」
 厨房にいた少女がにっこりと笑う。
 カナは一口食べ終わると、
「うん、うまい!」
 と再度絶賛し、またカレーをほおばる。

「いつもここで夕飯にしてんの?」
 水を飲んだカナが隣の子に訊く。
「最近ね。去年まではこんなに集まらなかったよ。時間がみんなバラバラでねー」
 隣の子——ベレーを被っていた少女が答えた。
「うちらさあ、大勢いるわりには全然まとまってなかったんだよね。オールドホームの子達と話してるとそう感じちゃって。もっとビシッとしよう! ってミドリとヒョウコがハッパかけたわけ。ねー、ミドリ」
「別にそんな大したことしてないわよ」
 照れ隠しに、ミドリは口をとがらせて言う。
「予定がバラバラなのは仕方ないけど、せめて週に一度、夕食くらいはみんなで一緒にとろうって決めたの。こっちは集団行動が嫌いなのが多くてね。最初はみんなブーたれてた。けど、今はみんな気に入ったみたい」
 とミドリ。
「へえ。よかったんだ」
 ミドリもよく灰羽達をまとめ上げている。カナは感心した。
「それから張り切っちゃってさ。今じゃ週一のカレーはここの名物よ」
「今日がその、週一の日ってこと?」
「今日は特別よ。カナが来てくれたから。いつもはだいたい土曜日ね」
 カナはスプーンを口に運ぶ。
「作るからには美味いものを仕上げたいじゃん。出来合いのルーを使わないで、スパイス混ぜるところから作ってんだ」
 男子の席から声が上がる。
「まあ、本気になった俺達はすごい! ってことだな!」
 そう言って少年達が笑い合った。
「ありがとうね、オールドホームのカナ」
 ベレーの子がにっこりと笑う。
「え、あたしはなにもしてないよ」とカナ。
「んー、でも端から見ていてうらやましかったんだよね。オールドホームの子達、みんな仲良くまとまってるんだもん。なのにうちら廃工場ではそうじゃないのって、ちょっと悔しくてね」
 おさげの子が言った。

 灰羽達は会話に花咲かせていく。

「やっぱ川遊びかなあ。必ずやりたいのっていうと」
 この夏なにがしたい? と訊かれたので、カナはグラスをテーブルに置いて答えた。
「お、やっぱり!」
 整備を手伝っていた少年が身を乗り出す。
「水遊びしたり、釣りしたり。あ、あとスイカ割りとかね!」
「バーベキューも最高だよな!」
「あ、あたし達それやったことないなあ」
「じゃあやろうぜ。道具は揃ってんだ」
 意気投合。会話がポンポンと飛び交っていく。
「カナってば、はしゃいじゃって。男の子みたいよ」
「なんだよミドリー、大人ぶっちゃって。楽しいよ? ミドリもやろうよ」
 ミドリは隣席の少女達と顔を見合わせる。
「ほら、次の灰羽の集いだけどさ。川遊びでどう?」
 カナの提案に、いいねえと男子の席から声が上がった。ミドリはくすりと笑う。
「しようがないわねえ。“河の魚”って書くだけあるわね。いいわ。カナに任せるわ」
「決まり!」
 これまではずっとラッカが廃工場とのやり取りをまとめてくれていた。今回は自分が中心になる番だ。カナは思った。楽しく盛り上げていかなきゃ、と早くも使命感に燃え上がる。

 ——と、そこで。
「ねえあんた達さ、さっきガレージで抱き合ったってホント?」
 横合いから、まったく唐突な問いかけだった。カナは口にした水を吹きそうになる。しまった油断していた!
「ええええええ?!」
 食堂が瞬間沸騰する。