Fake!
Its good to live it again
フランク・シナトラのヴェルヴェット・ボイスが、『Autumn in New York』を歌い上げる。
めっきり肌寒くなってきたこの季節はこの大都会の空気も澄んでいて、車窓を流れ過ぎる摩天楼の明かりも心なしか鮮やかに見える。
「Its good to live it againか……」
「何か仰いましたか?」
「いや、独り言だよ、生き方を変えるには良い季節……か……」
運転手は黙り込んでしまった。
カードが大統領を辞任するとでも思ったのだろうか……だが、彼はそんなに弱い人間ではない、逆境に立たされれば立たされるほど強烈な反撃に打って出る、それがドナルド・カードと言う男だった。
彼はポケットからスマホを取り出すと、良く知る人物の名前にカーソルを合わせた。
「ハロー、トムかい? ドナルドだよ……」
翌日、衝撃的なニュースが国中を駆け回った。
カード不動産が、最大手の広告代理店を買収しようとしているというのだ。
広告代理店のCEO、トム・キャンディは会見に引っ張り出されたが、苦り切った表情を浮かべるばかりでその噂を肯定も否定もしなかった。
彼は良い事も悪いこともはっきりと口にする人物として知られている、その彼が口ごもるということは……。
慌てたのはマスコミだ。
広告収入なくしてテレビ局は存続できない、それ自体は有料の新聞、雑誌にしても広告収入なくしては立ち行かない。
……カードに睨まれたら終わりだ……。
もはや社是も何もない、イデオロギーも飯の種があってこそだ。
それに、もし失業ともなれば……今まで散々にこき下ろし、貶めてきたカードが手を差し伸べてくれるとは到底思えない、むしろここぞとばかりに……。
その日を境にして、マスコミの『反・カード』は鳴りを潜め、中立な報道が、いや、社によってはあからさまにカード寄りの報道に転じる所すらあった。
カードの反撃は強烈なインパクトをマスコミに与えたのだ。
「協力に感謝するよ、トム」
「いきなり電話で『君の会社、いくらなら売る?』と聞かれた時は何事かと思ったがね」
カードは旧友・トム・キャンディを自宅に招き、一流シェフの手によるディナーと年代もののワインを振舞っていた。
「ドナルド、君とは学生時代からの仲だからな……それに私は何も言ってはいないよ、何も喋らなかっただけだ」
「そうだな、Fakeは何もなかった」
「だが、ドナルド、君の方はどうなんだ?」
「Fakeでもなんでもないさ、私はビジネスマンとして君の会社の買収を検討したが、価格が折り合わないからやめた、それだけさ」
「もっとも、私も売るつもりはないがね」
「まあ、フットボールを見ればQBはラン攻撃と見せかけてパスを投げるし、バスケットボールならスリーポイントシュートを打つと見せかけて切り込む、その程度のFakeとは言えないこともないがね」
カードは乾杯すると見せかけてひょいとグラスをそらし、会心の笑みを見せた。
(To be continue……←Fake)