隠子の婚約+美人の退職+愛娘の受験+仕事の責任=幸せの1/2
第24章 浮気相談
「木田さん、こんな状況ですけど、やっぱり予定通りに進んでないのは、うちだけじゃなくて、全体的に遅れ気味なんですよ」
藤尾リーダーが説明した。
「マルケン(元請け業者)からは、予定の変更は来ていないぞ」
博之は納期に間に合わないかが、一番の気がかりだった。
「うちが請け負ってるのは、映像のデータ作成だけど、照明が届かないんじゃ、どうしようもないんですけどね」
「それを期日までに届くように、マルケンの設備屋に要請したか?」
「いいえ」
「そっ、それやっとかないと!」
「絶対無理なのは分かってますけど」
「無理だとしたら、いい言いわけになるだろ。そうじゃないと、諦めて傍観してるだけと受け取られるとマズイ」
「そうですよね。自分の身を守るじゃないけど、ちゃんと出来なかった理由を、説明出来るようにはしときましょうよ」
パートの女子がいいこと言う。
「そうか。じゃ。みんな自分の担当に必要なアイテムが、期日に間に合うかの確認をしようか」
岩瀬がそう言うと、
「そうだ、そうしてくれ」
と藤尾が指示を出した。
博之は、初めてチームが、自発的に行動した瞬間を見た。これで新映像チームは“新・新映像チーム”になった。
『ビジネス』とは一言で言うと『お金稼ぎ』かもしれない。どうすれば収入を増やせるか常に考え、合理的な手法を見つけ出せれば、それを実践するだけでいい。博之はずっとそうして来た。そんなことを理解してくれる部下はいなかったが、それでも更に新しい業務を契約し、売上げを伸ばして来た。
しかし、個人での努力には限界がある。だから人の手を借りる。と言うより人を育て、しっかりしたチームを作る。そしてその結果によって、大きな信用を得る。そうすることで新しい業務獲得に結び付き、会社の売上げも伸ばすことが出来る。その代わり新たな責任が生まれる。部下の利益も安定して、増やしてやれるようにしなければならない。
博之は『作業』に付随するこれらを『仕事』と呼んでいる。そしてそのチームで業績を伸ばし、新しい分野への展開を期待する。これが『ビジネス』である。博之の立場では、この仕事の流れを止めることは出来ず、常に進化していないと気が休まらないのだった。