行く先々で。。。
術師は意味ありげに私に唇を歪めてみせた。
「え?!」
「お前は これから、日々を怯えて暮らす事になるのだ!」
「い、一体どんな呪いを…」
「これから お前は…行く先々で、悉く黒猫に横切られる!!」
緊張していた私は、一気に弛緩する。
「…は?」
「自分の罪の重さを、思い知るがよい!」
「えーとぉ…」
「何だ? どんなに哀願されても、許す気はないからな。」
「─ それの、どこが呪いなの?」
問い掛けに、術師は得意げな声で応じた。
「無知だなぁ お前はぁ…黒猫に横切られし者は、不幸に見舞われる事も知らんのか?」
「まあ…そういうジンクス あるよねぇ」
私の反応に、意表を突かれた表情を、術師は浮かべる。
「な、なんだ? 怖くないのか??」
「だって…私、黒猫、飼ってるしぃ」
「え?!」
「それも、3匹」
「ええ!?」
「だから…日々横切られてる」
「えええ!」
「でも、特に不幸には なってないし…寧ろ幸せ?」
呆然と立ち尽くす術師が哀れになって、私は思わず肩を叩いた。
「掛けられる側が言うのもなんだけど…どうせなら、もっとまともな呪いの方が良いじゃないかなぁ」
「うるさい。」
「…もしかして、これがあんたが使える最大の術だったりするの?」
「うるさい! うるさい!!」
「あんたって…思いの外、無能な人??」
「ひ、人の傷口に、岩塩を塗り込むなー!!!」
今にも、本気で大泣きしかねない様子の術師。
面倒くさい事になりそうな気がした私は、急いで この場から離れる事に決める。
「じゃあ、もう行くね」
「ちょ、ちょっと待て!」
「幾ら待っても…使える呪い、もう無いんだよね?」
「うー」
「修行してから、出直す事を お勧めする」
「くそー! お前なんか、嫌いだーー!!」
号泣し始めた術師を残して、私はその場から立ち去った。。。