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二人ぼっち

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 俺、会議中に突然総務課長から呼び出されて、いったい何ごとだろうと思ってたら、愛川さんが出勤する途中交通事故に遭って病院へ運ばれたって聞かされた。なんかもう目の前がまっ暗になって、会議で使う資料やら商品のサンプルやらを抱きしめたままタクシーに飛び乗った。車の中でうわ言みたいに「神様、神様……」ってつぶやいてたら、運転手が心配して「どうしたの?」って何度も訊いてきた。俺なんにも答えられなくってただ黙って涙ぽろぽろこぼしてたら、病院の前で料金払い終えたとき「気を落とさずに頑張れよ」って声掛けられた。
 ところがナースステーションで教えてもらった病室へ駆け込んだら「あれっ?」って拍子抜けするくらい彼女元気で、お見舞いに来ていた友だちと楽しそうに談笑してた。俺がもの凄い形相で飛び込んでいったものだから、最初驚いて「いったいどうしたの?」って笑ってたけど、俺が泣いてるの見て目を伏せて「ごめんね」って言った。横断歩道で車に引っ掛けられて転んだとき、ちょっと頭打ったんで救急車に乗せられたけど、怪我はかすり傷程度だからぜんぜん心配ないって。俺まじで胸がつぶれるほど心配したけど、でも無事でほんと良かった。
 彼女が元気なこと知って安心したら、会議の途中だったこと思い出して慌てて会社に連絡入れた。こっぴどく叱られるかなって思ってたら俺の上司なぜだかくすくす笑ってて「今日は仕事もういいから、愛川君のそばにいてやれ」って言ってくれた。その日は二人で見舞い客の相手をするかたわら、式の手順とかもう一度確認したりして面会終了時間まで一緒に過ごした。病院からの帰り道、神様にお礼しとかなきゃって思い立って、でもどの神様にお礼言ったらいいのか分からなくて、偶然見つけた神社に立ち寄ってお賽銭投げて「ありがとうございました」って手を合わせた。と同時にいい歳して人前で泣いてしまったこと思い出して、急に恥ずかしくなった。

 その三日後に愛川さんは突然死んだ。

 頭の中で出血してたのを医者が見落としてたらしくて、気づいたときにはもう手遅れだった。どうせ最後に奪ってしまうのなら、こんな幸せ初めから与えなければいいのにって、俺めちゃめちゃ神様のことを恨んだ……。
 告別式が終わって焼き場で彼女の骨拾って骨壺におさめてるとき、焼け残った骨に混じって変なものが転がっているのを見つけた。ぐにょぐにょに溶けて道路へ吐き捨てたチューインガムみたいに変形してたけど、それ、たぶん俺が贈った婚約指輪。彼女のお母さんに訊いたら、どうしても指から外れないって葬儀社の人が困っていたので「だったらそのまま一緒に焼いて下さい」って頼んだという。俺その指輪そっとハンカチにくるんでポケットに入れた。彼女の両親も親戚も、だれも咎めたりしなかった。
 初七日が過ぎて、本当だったら明日が結婚式だって日に、俺のもとに一通のメール便が届いた。差出人の名前見て、俺飛び上がるほどびっくりした。だってそれ、死んだ愛川さんからの手紙だったから。送り状の日付確認したらかなり以前に出したものみたいで、配達指定日が今日になってた。慌てて封切って読んでみると「明日から私の旦那さまになる人へ」って書き出しで、ちょっとくだけた感じの彼女の文章が便箋三枚にわたって綴られていた。将来の夢とか新しく妻になる意気込みなんかが書かれていて、俺読み進めるうちに涙がぽろぽろこぼれてくるのを止められなかった。きっと結婚式の前日にこんな手紙届いたらびっくりして緊張もほぐれるだろうなって彼女なりに考えてくれたんだと思う。なんか愛川さんがまだ生きていて、手紙の向こうから俺に語りかけてくれてるみたいに思えて、いてもたってもいられない気持ちになった。便箋の上に涙こぼさないよう気をつけながら読み進めていくと、手紙の最後のほうに「私が勝手に決めた夫婦の約束ごと十箇条」というのがあって、その十番目にこんなことが書かれていた。

 十、もし二人のうちどちらかが先に死んでも、いつまでもくよくよせずこれまでの思い出を大切に頑張って生きてゆくこと。

 俺、手紙顔に押しつけてわんわん泣いてしまった。愛川さんがすぐそばにいるみたいな気がして、手紙に頬ずりしたら彼女の肌にもう一度触れられるような気がして、便箋がくしゃくしゃになるまで顔にこすりつけて泣いた……。
 しばらくして少し気分が落ち着いてから、捨てようと思って玄関に積んでおいた二人の思い出の詰まったフォトアルバムもう一度本棚へ戻して、あと今日送られてきた手紙と火葬場で拾った婚約指輪を机の引き出しに大切にしまって、そして会社の上司に連絡入れた。
「有給まだ残ってるけど、俺明日から出社します」
 しばらく沈黙があって、それから「がんばれよ」って言われた。
 まじ、俺なんかのこと好きになってくれた愛川さんのためにも頑張って生きてゆこうと思う。
 明日ケーキ買ってきて、ここで結婚式やることにした。
 俺たち二人ぼっちの、結婚式。

作品名:二人ぼっち 作家名:Joe le 卓司