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二人の監督

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ほぼ同年配の二人の監督がいる。一人はワールドカップ・サッカー日本代表チームの西野朗監督。もう一人は某大学アメリカンフットボール・チームのU元監督だ。二人の振舞いはまるで逆のベクトルを示してしまった。
 西野監督は、前任者のハリルホジッチ監督が解任されて急きょ抜擢された。
一方U元監督は他大学との対抗戦の時、選手の一人に危険なタックルを行わせ、そのため相手選手は重傷を負ってしまった。
 ハリルホジッチ氏の速攻の理論は日本代表には根付かず、選手たちとの間に不協和音を来した。以前から技術委員長として選手たちと意思の疎通をしてきた西野氏は、彼らが自らアイデアを実践するような雰囲気作りを行った。
 ひるがえって某大学アメフトチームの場合は、上層部と選手とのコミュニケーションは乏しく、自身の意見が許されない雰囲気だったと言う。
 西野戦術では、敵のストライカーを封じる作戦の的確さが功を奏した。それを可能にしたのがデータの収集とその緻密な分析だ。データを集めるための担当を三人も配置するという周到さである。
 リーグ戦の第3戦の途中でコロンビアが得点したとの情報が入ると、西野監督は負けても決勝トーナメントに進出できると踏んで無理に攻撃に出ずボール回しを徹底させた。このことについて批判が出たが、西野氏は刻々と入る他会場からの情報を吟味した上で理性的に結論を出したし、また大きな賭けに出たとも言える。西野監督はこのやり方について後で選手たちに詫びたと言う。
 U元監督が選手たちに頭を下げたことはあるだろうか。まずあるまい。内情はよく知らないが、聞こえてくるのはパワハラ的な指導という言葉だ。時には一人の選手を干して精神的に追い込んだ上で、その後帰順させるという非人間的な指導法が伝えられている。今回の対抗戦での暴力的なタックルもレギュラーから外された選手が「相手選手を潰す」と申し出ざるを得ないように仕向けたものだ。
 いつもクールに情報を分析して、訥々と語る西野監督。決勝トーナメントのベルギー戦は3対2で結局敗れ去ったが、次回への伸びしろを示す戦いぶりだった。敗戦直後の記者会見で西野氏は「追い詰めましたが・・・何が足りないんでしょうか」とあくなき分析を試みているふうだった。
 U元監督のほうは記者会見で理路整然と話していたが、それは話の辻褄を合わせるために予行練習を繰り返したものに見えた。「自分が『1プレー目で行け』と言ったのを(選手の)M君が曲解したために起こったこと」という意味のことを釈明していた。選手を愛し、かばうどころか、いたいけな選手に責任転嫁する、いとも悲しい話しぶりであった。
 スポーツとは本来何だろうか。プレイヤーが勝利を目指して努力することを通して心身を健全に成長させ、また人間関係を学んでいくものではないか。だとしたら、二人のスポーツ指導者のうち西野監督はこの精神をどれほど押し広め、またU元監督はどんなにこれに背いたことであろうか。 
作品名:二人の監督 作家名:ashiba