小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

カクテルの紡ぐ恋歌(うた)Ⅺ

INDEX|23ページ/27ページ|

次のページ前のページ
 

(第九章)アイスブレーカーの行方(7)-休日の職場



 週末昼すぎの市ヶ谷は、非常呼集を受けて登庁した幹部職員と報道関係者たちで騒然としていた。統合情報局の入る建物の一階ロビーでは、撮影機材やマイクを持った人間たちがひしめき合っている。しかし、彼らの中に、警備員たちの背に隠れるようにして歩きすぎる小柄な女性職員に目を留める者は、誰もいなかった。

 第1部の部屋に入ろうとした美紗は、中から勢いよく出て来たイガグリ頭とぶつかりそうになった。
「鈴置? どうしたんだ。呼集範囲は佐官以上だったはず……」
「あの、ニュースを見て、気になったので」
「そうか、休みの日に悪いな。正直言って助かる」
 直轄班長の松永は、疲れた笑みを浮かべると、直轄ジマのほうを見やった。
「取りあえず佐伯に状況を確認して、彼の指示に従ってくれ。俺はこれから陸幕(陸上幕僚監部)に行ってくる」
「お疲れさまです」
「ああ、ヒグマ1佐も来てるぞ」
「……」
 美紗が返答に困っている間に、松永はエレベーターホールへと走り去っていった。

 事務所の中は拍子抜けするほどガランとしていた。主に総務系のセクションで構成される第1部の中で招集がかけられたのは直轄チームだけらしく、他の課には自発的に出勤してきたと思われる年配の幹部が数人ずつしかいない。部長室の前で話し込んでいる見知らぬ面々は、ひとつ下の階に勤務する地域担当部の職員と見受けられた。
 直轄チーム先任の佐伯3等海佐は、戸口に美紗の姿を認めると、電話の受話器を手にしたまま、反対側の手で嬉しそうに手招きした。
「鈴置さん、来てくれたんですか」
「情報局の鑑だ」
 内局部員の宮崎が銀縁眼鏡をギラつかせる横で、ずんぐり体形の3等海佐は不機嫌そうに口を尖らせた。