カクテルの紡ぐ恋歌(うた)Ⅺ
フットランプのほのかな灯りが、小柄な身体を静かに横たえる逞しい影を映し出す。骨ばった手が髪を優しく梳き、火照った頬を包み込むように撫でると、美紗は目を閉じて熱い吐息をもらした。ひと月ぶりの温もり。わずかに触れられただけで、疼きにも似た感覚が胸に広がる。
「美紗……」
耳に心地よい彼の声が、下の名前を呼んだ。胸の上で握りしめられていた華奢な手は、耐え切れず厚い胸板にすがりついた。それが、肩を伝い、首筋へと伸びる。指先に触れた少しクセのある髪の感触は、抑え難い衝動をいっそう増幅させた。
「……き、さん……、ずっと……」
ずっと、一緒にいて――
言葉がこぼれそうになる瞬間、瞼の奥に、青と紺の合間のような色がちらつく。
この街につなぎ留められたことを、
彼は本当に喜んでいるのか。
遠い街で悲しむ誰かを、
彼はこの瞬間にも、想っているのではないのか――。
身体の中で何かが激しく乖離する。求める腕は美紗の意思を無視して太い首元に絡みつき、力を込めて彼の顔を抱き寄せた。小さな唇が、頬に耳に、触れるだけの口づけを繰り返す。その間、彼はただ、されるままになってやっていた。温かな沈黙が、ゆっくりと時を刻んでいった。
作品名:カクテルの紡ぐ恋歌(うた)Ⅺ 作家名:弦巻 耀