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ショートショート集 『一粒のショコラ』

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ー40ー それぞれの想い


〈今日、息子が入籍した。結婚式は挙げないそうだ〉
 
 俺たちの頃とは違い、今は、入籍だけというのも珍しいことではないらしい。ただ、うちの親戚では初めてのことなので、兄たちには伝え辛かった。
   
 
 
〈今日、僕たちは入籍した。式は挙げないことにした〉
 
 彼女に両親はいない。身内もひとりもいなかった。そんなことを僕は何とも思わないし、僕の親も気にしてなどいない。でも、やはり、彼女がかわいそうな気がして、ふたりで記念写真を撮ることにした。
  
 
 
〈今日、私たちは入籍した。ウエディングドレス姿で記念写真を撮った〉
 天涯孤独の私への配慮から、彼は式を挙げない選択をした。長男の結婚式を楽しみにしていたご両親には、本当に申し訳なく思う。その思いを忘れずに、彼の両親には精いっぱいの孝行をするつもりだ。
  
 
 
〈今日、お兄ちゃんにお嫁さんがきた。結婚式がなくて、かわいいドレスを着られず、ちょっとがっかりした〉
 
 でも、お兄ちゃんのお嫁さんは、とてもやさしかった。ずっと、お姉ちゃんがほしかったから、私はすごくうれしい。
 
  
 
〈今日、息子が入籍した。残念なことに、留袖に袖を通す機会はなかった〉
  
 華やかな披露宴など望まないが、ささやかでも式は挙げてほしかった。自分の選んだ女性を、誇らしげに披露する息子の晴れ姿を見てみたかった。せめてもの思いから、私は息子の門出を祝う気持ちをしたためた。
  
 
      ― 息子へ ―
 
 生涯を共にする人に出会えてよかったですね。母さんはとても安心しました。
 これからは、誰よりもお嫁さんを大切にするように。
 もしも、いつか、私とどちらかを選ばなければならない時が来ても、迷わず彼女を選びなさい。
 あなたたちの幸せが、私の何よりの願いです。
 
  
 結局、この手紙を息子に渡すことはなかった。
 この母の想いは、いつまでも引き出しの奥で眠っていることだろう。



             完