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亨利(ヘンリー)
亨利(ヘンリー)
novelistID. 60014
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ポジティぶ なんだから (最終話の前に第9話追加)

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第2話 気のせいなんだから



「このコーヒーまずいな」
「え? いつものやつですよ」
「なんか違う」
「うーん。違うと言えば、なんとなく・・・」
「絶対ちがう」

ボスは時々、細かいことに気が付くんだから。

「でも、淹れたのはこの豆ですから」
「それは香りでわかる」
「味が違うんですか?」
「淹れ方変えたか?」
「いいえ、いつも通りです。そのコーヒーマシンで」
「そのマシーン壊れてないか?」
「買ってまだ2ヶ月ですよ」

違いが気になると、とことん理由が知りたいんだから。

「このカップ。こんなのあったけ?」
「ああこれ、昨日、展示会の景品で貰ったやつです」
「これだ」
「カップのせいですか? ちゃんと洗いましたよ」
「安物だ。だから味が変わる」

そんなバカなこと、本気で言うんだから。

「気のせいでしょう」
「そうだ。気の問題だ。安物には“氣”がこもってないからな」
「じゃ、いつものカップで飲み比べてみましょうか?」
僕はサーバーに残ったコーヒーを、ウェッジウッド(高級陶磁器)のカップに注いだ。
「香りは同じですね」
僕たちは、慎重にウェッジウッドに口を付けた。
「うん!?」
「ほら、味が変わった」
「た、確かに。あれ?」
もう一度安物のカップに口を付けると、
「まっず。不味いです。なんででしょう?」
「“氣”が入ってるからだ。これを気のせいって言うんだ。分かってよかっただろ」

この人、こんな不思議な事、いっぱい知ってるんだから。

お手伝いさんが、カップを洗ってくれている。キッチンで、カチャーンと割れる音がした。僕は(また、割ったな)と思った。お手伝いさんは、割れたコーヒーカップを手に、舌をペロッと出して謝った。
「ケガしなかった?」
ボスが心配そうに聞いた。
「すみませーん。またやっちゃいました」
割れたのはウェッジウッドのカップだった。
「あーあ、高い方割っちゃいましたね。そう思って景品のカップに変えておいたのに」
「ああ、それで安物出してたのか。理由が分かってよかった」

本当に、何でもよかったって考えるんだから。

それを聞いて、お手伝いさんが、
「これ高かったんですか? 気が付きませんでした」
「気にしなくていいですよ。“氣”は込めるものだから」
「でも気を付けてくださいよ。今月3回目だし」
僕は(いい加減にしてよ)って気がしていた。
「そういうの気を付けないといけないって、気付けて良かったじゃないか」

ボスは太っ腹だなって思っていると、翌日からそのお手伝いさんクビになった。
気付いたのは「割れやすいカップ」じゃなくって、「割りやすい人」って意味だったんだから。