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夢見る家族

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飛べよ風船、どこまでも



 亡くなった妻とよく来ていたという公園で、今日も娘と二人ブランコで揺られている。
 月に一度二人で揺られながら、それぞれがママと妻に話しかけている。3人だけの30分。
「そろそろ行こうか?」
「うん」
 近所のショッピングモールでおやつのアイスクリームを食べるのが娘の最近のお気に入りだ。虫歯は大丈夫かな? とも思うのだが、
「いつもママと半分こして食べてたの」
 そう言われると断れない。ママと半分こだったアイスが今では6対4で娘の方が多く食べる。もうすぐ僕が食べるアイスの量は3か2になるだろう。休日のショッピングモールのアイスで知る娘の成長だ。
「あれはどこまで飛んでいくの?」
 娘が指差した先では、子ども相手にマスコットの着ぐるみがヘリウムガスの風船を手渡していた。
 ヘリウム風船の限界高度? 僕の理系魂に火が着いた。とは、少し大げさだがざっと考察すると、高度1㎞の大気境界層から10㎞の対流圏の間だろう見当を付ける。でも、そんなことを娘に言ったところで「たいりゅうけんってなに? 新しいラーメン屋さん?」と言われるのが落ちだ。ここは父親らしい答をしなくては、
「目で見えなくなるくらい高く飛んでいくよ」
 あまり父親らしい答ではなかった。これが今の僕の限界。
「ふ~~ん、そうなんだ」
「風船ほしい? もらおうか?」
「うんん、明日ほしいの」
 明日? また明日もここへ連れてこいという娘からのリクエストだ。普段あまり自分の要求をしない娘にしては珍しいことだった。
「明日はアイスはダメだぞ」
「うん、わかった!」
 元気に娘は答えたが、本当にわかっているのだろうか? 明日連れてきたらアイスの前で駄駄をこねるんじゃないかな? 僕は少し心配になった。

 翌日、昼食を済ませて二人で公園へ行こうとしたが、
「先に風船がほしい」
 ありゃりゃ、ママとの思い出より風船の方が大事らしい。僕は心の中で妻に詫びてショッピングモールへと向かった。そう言えば娘の部屋にはてるてる坊主がぶら下がっていたことを思い出した。そんなに君は風船が恋しいのか?

 タヌキのマスコットから緑色の風船を受け取ると、娘は満面の笑みを浮かべていた。
「公園行こう!」
 今日の君は積極的だ。よろしい、たまには子どもに振り回されるのも良きパパとしての務めだ。
 公園ではいつものようにブランコに並んで座る。娘はポケットから紙切れを出して風船のヒモに結び付けようとしていたが、そこは子どものやること、上手く出来ずに僕の方を上目遣いで見てきた。
「パパがやってあげようか?」
 娘から風船と紙切れを受け取って結ぼうとしたが、目が霞んでなかなか出来なかった。紙切れには娘が一生懸命書いたであろう字が躍っている。
『ママ おたんじょう日 おめでとう』

 やっとの事で結び終えた風船が娘の手を離れ、空高く飛んで行く。妻が好きだった緑色の風船。
 僕は涙がこぼれないようにいつまでも飛んでいく風船を見上げていた。

(了)
作品名:夢見る家族 作家名:立花 詢