小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

働き方改革

INDEX|1ページ/1ページ|

 
働き方改革

「最近うちの社員食堂、不味くなったと思わないか?」
「そうですか? 僕はあまり感じないですね」
「お前少しおかしくないか。ひょっとして会社から袖の下でも貰ってるんじゃないのか?」
「そんなことあるわけ無いじゃないですか」
「だったら俺と一緒に声を上げよう! 社員食堂に入っている業者は社長の知り合いみたいだし」
「そうなんですか?」
「な!? おかしいだろ。総務部の連中が社員食堂の業者を決定するときだって、きっと社長の気持ちを忖度して社長の知り合いに決めたと思うんだ」
「本当にそんなことがあるんですか?」
「ああ、俺は社長が罪を認めて辞任するまでこの疑惑を追及するぞ」
「社長の辞任って、次期社長を狙ってるんですか?」
「バカ! 俺にそんな能力も人徳もあるわけ無いだろう。俺たちの行動で社長が辞任すれば次の社長は、俺たちの顔色をうかがうようになるだろう?」
「はあ、そうかもしれませんね」
「だろ! そうすれば社内での俺たちの影響力も上がって、働きやすくなるぞ。これは俺たちの働き方改革だ! さっそく会社の玄関前でシュプレヒコールを上げるぞ。それとビラの用意だ」

 その日から二人はせっせせっせと玄関前で社員食堂に対する疑惑の声を上げ、ビラを配り続けた。重要なプロジェクトが山積みだというのに……。
 業務そっちのけで、給料を貰いながら会社の悪口を好き放題に言う二人に同調する者たちが現れた。それは同じ給料を貰うのだったら仕事なんかほっぽり出して、気楽なアジ演説やビラ配りをしていた方が良いという志の低い社員たちだ。
 会社としては多くの通行人が通る玄関前で、ありもしない疑惑を罵られてはたまったものではない。仕方なく会議室を用意して彼ら不忠者たちと話し合う準備があることを伝えた。
 これを聞き、なにを勘違いしたのか不忠者たちは「やはり会社は疑惑を隠していたんだ! だから俺たちの要求を受け入れ、話し合いの場を設けたのだ!」と天にも昇る脳天気な感想を持った。

 会議室では不忠者たちに対して、総務部が社員食堂の業者を決める際の企画書や資料などを提示した。理路整然とした資料を見た不忠者たちは「これは綺麗に出来過ぎている! 疑惑はますます深まった!」と自らを省みない、なぞ理論を展開して社員食堂を担当している業者を呼べだの、この資料の基になったメモがあるはずだ! それを出せ! だのと愚連隊まがいのイチャモンを付け始めた。

 結局二週間に及んだ話し合いはどこからどう見ても潔白という結論しか導き出せなかったが、そこは頭がお花畑の不忠者たち。
「決して疑惑が晴れたわけではないが、会社のためを思って業務に復帰してやる。ありがたいと思え!」と意味不明な捨て台詞を残し業務に復帰した。

 これで不忠者たちによる言いがかりも一段落を見せるかに思えたが、豈図(あにはか)らんや、ずる賢い彼らは「われわれが疑惑のせいでイヤイヤながらも業務から離れていたのは二週間だ。プロジェクトの締め切りを二週間分先に延ばせ! それが筋というモノだろう」と恐るべき要求を言い出した。もはや、人間ではなく寄生虫である。
 これには静観していたほかの真っ当な社員たちもあきれ果てた。彼らがいなくてもプロジェクトは滞りなく進捗していたのである。いや、むしろ彼らが抜けていた方が効率的にこなせるという事実が判明したのだった。その意味では、不忠者たちの卑怯な謀反は有益だったのかもしれない。まさに会社やほかの社員たちにとっては怪我の功名である。職場での存在感を著しく失った彼ら不忠者たちは、一人抜け二人抜け、残された者も業務査定は最低で給料もだだ下がりに下がっていった。転職しようにも会社に言いがかりを付けた臑にキズのある凶状持ち。業界でも黒い噂がつきまとい、まともな職など望むべくもない。
 かくして、声だけが大きく会社にとっては厄介者だった社員はなりを潜め、おとなしく飼い慣らされた。真に仕事ができる社員が生き生きと働ける職場がここに実現したのだった。

 これら一連の騒動を静かに見守っていた社長を始め役員たちが一堂に会した取締役会の席上、ある役員がこんな発言をした。
「社長、このたびの騒動は我が社にとってまさに怪我の功名というか、思わぬ好結果を生みました。そこで、今後は一部の悪目立ちする社員が出てきた場合、それら社員が食いつきやすいあらぬ噂を流して、粛正してみてはいかがでしょう?」
 社長は言下に答えた。
「いや、なにもそんなことをする必要は無い。どんな健全な会社であってもいずれ澱(おり)が溜まるように不心得な者が出てくるだろう、それは仕方のないことだと思う。それよりも、われわれは今まで通り正々堂々、正正の旗、堂堂の陣で行こうではないか。それが我が社を強くして、真に働く者たちが働きやすい職場を作ることだと、私は信じて疑わない」
 かくして、とある会社の働き方改革は実を結んだ。

(了)
作品名:働き方改革 作家名:立花 詢